自動車シートとソファーとパイプ椅子。その違いは?~自動車用シートの基礎~
普段、愛車を運転する時に何気なく座っているクルマのシート。
運転中は他の何よりも自分に触れているシートについて、今回は簡単に紹介していきたいと思います。
まずはじめに、自動車用シートに求められる一般的な役割について考えたいと思います。
廃車ドットコム岐阜の事務椅子
一概にシートと言っても、私たちの身の回りはシート(イス)で溢れかえっています。
例えば、自動車用のシートに限らず、私たちが日常的に使用している座椅子やソファー、折りたたみのパイプイス、また、座るということだけであれば身の回りに転がっているような箱でさえシートになりえます。
それでは、これら身の回りのシート(イス)と自動車用のシート、なにか求められていることに違いはあるのでしょうか?
それぞれのシートの使用環境から探ってゆきます。
屋外用のパイプイス
まず、一般的なシートについて考えてみましょう。
私たちの日常の生活において、地震でもない限りはシートが設置されている床、もしくは壁などが動くということはないように思います。
そして、そのシートに座っている私たちも、シートに座りながら何か手を動かして仕事をしたり、くつろいだりすることがほとんどで、座りながら自分の体が大きく動くようなアクションを起こすことは、普通の状況ならばないように思えます。
すなわち、これらのシートはある固定された環境に設置され、上に座っている人間も大きく動くことがないような状況の中で使用されていると言うことができるでしょう。
一般的な自動車用シート
(ヴィッツ純正)
しかし、自動車用のシートについて考えると、シートを固定している土台である自動車は、地面に対して固定されているわけではなく、また、私たちがシートに座っている時間のほとんどは、運転中という常に自動車が三次元的に移動していて、かつ、路面のギャップなどによって自動車が三次元的に振動しているような状況の中で、これらのシートは使用されています。
そのため、運転中は常にシートも自動車と同じように移動し振動していると想像できます。
また、自動車の運転時にはハンドル操作やペダル操作など、比較的動きの大きい運動をドライバーはしているため、それによってシートも変形し振動するでしょう。
そのため、快適かつ正確なドライビングをするには、ドライバーを支える役割もシートが担わなければならないということなのです。
以上のことをまとめると、自動車用のシートは土台(自動車)が動いている状況の中でほとんどの時間は使用されていて、また、上に座っている人間を支える機能も必要とされていると言えるでしょう。
日産:エルグランドE51のシート
このような、シートを支える土台が移動するか静止しているかの違いと、座っている人間をサポートする必要が有るか無いかの違いが、一般的なシートに求められる役割と自動車用のシートに求められる機能の違いなのです。
それでは、私たちが一般的なシートに求める機能とはどのようなものがあるでしょうか。
例えば、私たちが座って何か仕事をしなければならない時に、座面や背もたれが硬い素材で出来ていて、長時間座っているのが苦痛に感じられるようなイスと、体に触れるところにはきちんと柔らかい素材があてがわれているイスの2種類があった場合、多くの人々は後者のイスを選ぶでしょう。
また、疲れて何かに腰を掛けたいときにはソファーを選ぶでしょう。
すなわち、私たちは一般的なイスに対して快適性(くつろぎやすさ)を重要視しているといえるのでは無いでしょうか。
ここで、自動車のシートがソファーに似た形状であり、材質も非常に柔らかいものだった場合を考えてみると、確かに自動車が停まっていて、私たちは座るだけでよいのならば非常に快適で心地よいものに感じられるでしょう。
また、自然な体勢を取ることができるため、長い時間座っていてもあまり疲れは感じないように想像できます。
しかし、ひとたび自動車が動き出してしまったら、ソファーには私たちを支える機能はないため、何かにつかまらなければまともに座っていることもできないのではないでしょうか。
また、柔らかい土台の上でバランスを取らなければならないので、自動車用のシートよりも疲れるのが早くなってしまうように感じます。
更に、これが運転席だった場合には、身体が不安定な状態でハンドル操作やペダル操作をしなければならないため、運転は正確性を欠いてしまう可能性も大いにあります。
RX-8純正シート
つまり、ソファーのような極端に言えば快適性のみしか考慮されていないシートは、自動車での使用にあまり適していないと言うことです。
以上の点を踏まえると、自動車用のシートには快適性と同様に私たちの身体をしっかりと支えるためのホールド性も重要な機能の一つと言うことなのです。
それでは、ホールド性のあるシートが自動車を運転する上で、私たちにもたらすメリットとはどういったものがあるのでしょうか。
SE3PマツダRX-8運転席シート
走行中の自動車のタイヤと路面の接地部分は常に何かしらのインフォメーション(振動や音など)を発しています。
そして、ドライバーはそれを身体で受け取ることによって路面の状況やタイヤのグリップなどを知ることが出来ます。
一般的に、前輪からのインフォメーションはハンドルを通して受け取っていると言われ、後輪からのインフォメーションはシートから伝わる振動として腰や背中で受け取っていると言われています。
そのため、ホールド性の高いシートでは身体をきちんとシートに固定し、また、クッションなどの緩衝材の量を少なくしているので、タイヤからの振動をタイムロスなく身体に伝えることが出来ます。
この結果、ドライバーはクルマの挙動の変化をかなりリニアに察知することが出来ます。
自動車を速く運転する上で、路面やクルマの状態、タイヤの限界などを知ることは非常に重要な要素であるため、競技用やスポーツ走行用のシートでは特にホールド性を重視して設計されています。
これまでホールド性の高いシートのメリットについて紹介してきましたが、現在の日本において、多くの自動車の純正シートでは快適性の方に重きが置かれています。
このことは、スポーツカーに分類されるような車種でもあまり変わらず、やはり、そのままのシートでスポーツ走行を行うにはどうしても物足りなさを感じます。
これは、シートのホールド性と快適性を高い次元で両立することは非常に困難なことであり、また、コストもかかってきてしまうため、どちらかに性能を絞る必要があるからです。
日常の運転において必要とされるホールド性はそこまで高くないことと、ホールド性を高くしすぎることは乗降性を非常に悪化させてしまうことなどを考慮した場合、どうしてもホールド性の優先順位は低くなっています。
そのため、メーカーの純正シートでは快適性を優先したものが多いのです。
BMW(120iクーペ)運転席シート
しかし、普段使いの中でもホールド性を重要視するユーザーや、スポーツ走行を行うユーザーなどもいます。
メーカーも純正オプションとして、自動車用シートの有名メーカーが設計したものを用意することがあります。
RB1オデッセイ:オプションのレカロシート
また、自動車用シートメーカーもホールド性に絞ったものや、快適性とホールド性を両立したものなどを数多くラインナップしています。
購入後に純正シートを社外品に交換するオーナーも多くいます。
ホールド性を高めたシートは一般的に「バケットシート」と呼ばれています。
ここで、「バケット(bucket)」とは「バケツ形の」という意味で、一般的なものと比較してシートのサイトサポートを非常に高くし、また、身体を包み込むような形状に設計されているためこのように呼ばれています。
この、身体の各部分をタイトに包み込むという形状が、バケットシートの抜群のホールド性を生み出しています。
しかし、非常にタイトなシート形状のため手や足などの可動域は大幅に制限されてしまいます。
バケットシートは、隣や後ろの席の荷物を取るといった些細な動作でさえも非常に難しいものとなり、乗降性も非常に悪化してしまいます。
よって、「機能性」と「ホールド性」の、相反する要素をいかにバランスさせるかが、シートメーカーやユーザーの命題となります。
そのため、シートメーカーはホールド性に性能を絞ったものから、機能性とホールド性を両立したものまで様々な性格を持つシートをラインナップしてユーザーのニーズに応えています。
バケットシートはその設計と機能の違いから、大きく分けて次の2種類に分類されています。
・フルバケットシート(full bucket seat)
…リクライニング機能なし、ホールド性が非常に高く構造が単純な為軽量
・セミバケットシート(semi bucket seat)
…リクライニング機能あり、ホールド性はフルバケットシートに及ばないが汎用性は高い。
重量は純正品とあまり変わらないことが多い
フルバケットシート(通称:フルバケ)
“フルバケ”は、ホールド性の向上のために座面と背もたれが一体となって設計されています。
従ってリクライニング機能はありません。
この、座面と背もたれを共通化したシートの骨格部分は「シェル」と呼ばれており、この部分にはFRP(繊維強化プラスチック)やカーボンアラミドなどの軽量な素材が用いられています。
そのため、シートの重量も純正品にくらべて大幅に軽量となります。
また、上の素材は強度・靭性に優れ、シェルにリブ構造が採用されているため、剛性も非常に高く、競技やサーキットなどのハードな走行を行う層に人気があります。
フルバケットシート
セミバケットシート(通称セミバケ)はフルバケとは異なり、座面と背もたれが分割されているためリクライニングをすることが出来ます。
また、フルバケよりもサイトサポートなどが低く設計されていることが多く、ホールド性ではフルバケに劣っていますが、セミバケの方が汎用性では優っています。
シートの構造自体は一般的なものとはあまり変わらないため、大幅な軽量化を期待することは出来ません。
セミバケは、ライトなユーザーに人気があり、また、利便性の面から運転席をフルバケ、助手席をセミバケとすることも多くあります。
最近では、有名な日本製自動車用シートメーカーであるブリッド(BRIDE)から発売されている「GIASシリーズ」などのようにリクライニング機能のあるセミバケットシートでありながら、フルバケットシート並のホールド性と軽量を実現したモデルもあります。
とても高評価なのですが、アルミなどの高価な素材を使用し、また、製造コストの増大などによって価格も普通のセミバケットシートに比べて非常に高く設定されています。
セミバケットシート
◇
◇
◇
ここまで、自動車用のシートについて大まかに紹介してきましたが、シートについての興味は湧いてきたでしょうか?
フルバケ・セミバケともに一長一短あります。
しかし確実なのは、シートを変えることによって“運転が楽しくなる”ということです。
両方とも少し値は張りますが、ワンランク上のドライビング体験をしたいのならば、一考の価値があるのではないでしょうか。
(執筆:広島大学自動車部)
パーツやメタル資源として再利用し国内外に販売!
車解体の資格を持つ廃車.comの工場と直取引だから高く買取れる。
すでに払った31,600円の自動車税も返ってくる。
(4月に廃車/1,600cc普通自動車)