道路交通法は、私たちの生活に密接に関わってくるため、法改正のたびに大きく取り上げられます。
準中型免許の新設や、自転車の路側帯通行に関する規定の改正は、記憶に新しい人もいるのではないでしょうか。
さらに最近では、2019年12月1日に道路交通法が改正されました。
「携帯電話使用等対策の推進を図るための規定の整備」と題して行われたこの改正は、つまるところ、ながら運転の厳罰化です。
そして現在、あおり運転の厳罰化に関する法整備も、検討されています。
ここでは、最近話題となっているながら運転と、あおり運転に関する道路交通法の改正について説明していきます。
スマートフォンの登場は、今までパソコンを通して行っていたネット接続を簡単にし、世の中をより便利に変えていきました。
日本のスマートフォン市場は、ここ10年で広く発達し、普及率は80%を超えるとも言われています。
スマートフォン向けの位置情報ゲームアプリ「ポケモンGO」が出始めると、若い人だけではなく年配の人も、スマホを片手に町を出歩く様子を見かけるようになりました。
このゲームアプリを入れた人の中には、これまでの通勤・通学路をちょっと変更してみたり、寄り道をするようになったりした人も、多いのではないでしょうか。
今まで何もなかったところに、急に人だかりができることもあり、その普及は人々の動線を大きく変えたと言っても、過言ではありません。
これらだけを考えても、スマートフォンというこの小さな端末がいかに、社会に影響を与えるかわかりますね。
一方で、悪い面も大きくクローズアップされるようになりました。
今回の、法改正検討のきっかけともなった出来事で、2016年10月に愛知県で起きた、ながら運転トラックによる小学4年男児の死亡事故です。
これを契機に、遺族や自治体などが、国に対して厳罰化を求めてきました。
ながら運転は、年々増加しています。
2018年のスマホ使用などによる事故件数は、2790件と10年前と比べるとおよそ2倍となっています。
グラフ1を見ると、年々増加していく様子が見て取れます。
また、2018年の違反取り締まり件数は、84万件にのぼります。
これは、交通違反取締まり全体のおよそ14%を占めています。
今や、ながら運転は日本全体の社会問題となっているのです。
スマホなどの使用状況別交通事故件数の推移
道路交通法では以前から、運転中に携帯電話を手にもって通話や、メール、ネット通信、ゲームなどをすること、カーナビやテレビに見入る行為を禁止しています。
ながら運転は、スマホの使用に注目されがちですが、カーナビの使用も同等に取り締まりの対象となることを、知らない人は意外と多いかもしれません。
今回の法改正では、具体的に以下のように内容が変更されました。
ながら運転の厳罰化の内容
これまで、普通車で違反し取り締まられた場合の反則金は、6000円だったのに対し、今後は1万8千円となります。
また、スマホなどの使用によって、事故を起こしそうになるなど「交通の危険を生じさせた」場合の違反点数は2点から、6点に引き上げられ初犯であっても、即刻免許停止となります。
使用などの違反で、反則金を収めなかった場合の罰則は、5万円以下の罰金だったのが、6カ月以下の懲役または、10万円以下の罰金に強化されました。
信号待ちや、渋滞で車が完全に停車しているときは、規制の対象外となりますが、警察庁では運転中に電源を切るなどし、操作する際は安全な場所へ車を停止してから行うよう呼び掛けています。
10年前と比較すると、私たちの生活スタイルは大きく変化しました。
スマホが身近にある生活が当たり前になり、スマホの画面を注視することへの危機感が薄れてしまっています。
自動車の運転中だけでなく、自転車の運転中や、歩行中でさえもスマホの利用は注意が必要です。
これを機に、スマホとの付き合い方を、改めて考え直してみるといいかもしれません。
続いて、ながら運転同様に近年注目されてきている、あおり運転についてです。
警察庁は、あおり運転に関して、「通行妨害を目的に一定の違反をし、事故を起こしそうになるといった交通の危険を生じさせる恐れがある行為」と規定しています。
この言葉が、大きく取り上げられるようになるきっかけとなる事件は、2017年に起きた東名あおり運転事故です。
パーキングエリアでのトラブルに腹を立てた男の、あおり運転によって、一家4人が乗ったワゴン車は、追い越し車線上で停止を余儀なくされ、後ろから来る大型トラックの追突により夫妻が死亡、娘2人が怪我を負いました。
この事故が注目されて以降も、あおり運転が減少することは無く、ますます社会問題化してきました。
それでは、車の運転によって事故を起こしてしまった場合、どのような処罰が下されるのでしょうか。
自動車事故に関する法律である自動車運転処罰法は、正式名称を「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」と言います。
これは、自動車の人身事故の際に適用され、大きく分けて以下の二つの犯罪類型に分類されます。
・過失運転致死傷罪
・危険運転致死傷罪
過失運転致死傷罪は、自動車を運転する上で必要な注意を怠って、人に怪我をさせる、または死亡させたときに問われる罪です。
罰則は、7年以下の懲役・禁固又は100万円以下の罰金刑が科せられます。
たとえば、前方不注意やハンドル操作ミス、脇見運転などが例として挙げられます。
危険運転致死傷罪は、悪質な交通事故版を適切に処罰するための罪で、法定刑は非常に重くなります。
適用されるのは、故意の傷害や殺人とも同視出来るような、非常に悪質な交通事故事案に限られます。
例えば、アルコールや、薬物の影響により正常な運転が困難な場合、著しい速度超過をした場合、そして人や車の通行を妨害する目的をもって運転した場合、などが挙げられます。危険運転致死傷罪の法定刑は、被害者が怪我をした場合と死亡した場合とで異なります。
被害者が怪我をした場合は、15年以下の懲役刑、死亡した場合は1年以上の有期懲役刑となります。
ここで言及しておきたいのは、この法定刑には禁固刑も罰金刑も無いということです。
必ず懲役刑が選択されるので、執行猶予がつかない限りは、必ず刑務所に行かなければならないのです。
あおり運転に、大きく注目が集まることとなったこの事故で、警察は男を過失運転致死傷罪で逮捕しましたが、検察は危険運転致死傷罪で起訴しました。
大きな争点となったのは、この事故が過失運転と危険運転のどちらに当たるのかということでした。
危険運転致死傷罪は、他車への妨害目的を持ったあおり運転も例として入っているので、当然危険運転になりそうなものですが、運転中ではなく、車を停車中に事故が起きている状況では、車を止めた時点で危険運転は途切れたとも見なせるのです。
先にも述べたように、過失運転と危険運転では、刑の重さが大きく変わります。
現在の道路交通法では、あおり運転そのものの規定はありません。
警察は、あおり運転を車間距離保持違反などで取り締まり、悪質なものについては、暴行や強要などの容疑を適用しているというのが、現状になります。
そのため現在、法律の整備が進められようとしているのです。
あおり運転等の悪質・危険な運転に対する厳正な対処
検討されている道路交通法の改正案では、対象となる違反を車間距離不保持や、急ブレーキ、急な進路変更などと想定しています。
それに加えて、こうした運転で高速道路上でほかの車を停止させるなど、交通の危険を生じさせることも禁止行為に含まれます。
意図的な、妨害目的があったかどうかは、ドライブレコーダーの映像や関係者の証言をもとに判断することになります。
罰則に関しては、暴行罪(2年以下の懲役又は30万円以下の罰金など)や強要罪(3年以下の懲役)を参考にし、あおり運転だけで運転免許を取り消しにすることも検討しています。
事故を起こした場合に、適用される自動車運転処罰法についても、法改正が行われようとしています。
先に述べた事故で、争点となったあおり運転による停車行為は、重大事故を起こす可能性があると判断し、危険運転の定義に加えることが検討されているのです。
これらの改正案は、2020年の国会に提出される見通しなので、実際に適用されるのは少し先のことになりますが、警察はヘリコプターを使ったあおり行為の監視を実施し、地上のパトカーと連携した空陸一体の取締りを行い、摘発に力を入れています。
以下のグラフは、あおり運転ではなく車間距離保持義務違反の取り締まり件数だが、これだけでも2018年に大きく増加していることが分かります。
車間距離保持義務違反の取り締まり件数
私たちは、あおり運転をいつでも起こりうる、身近なこととして捉えて考える必要があります。
加害者はもちろん、被害者にならないために、私たちに何かできることはあるでしょうか。例えば、私たちに悪意はなくても安全確認の甘さなどから、後継者の直前に進路変更を行ってしまい、それが後継者のあおり運転を誘発してしまうことも考えられます。
高速道路では、車間距離を保つなど、慎重な運転が求められます。
長い期間車を運転している人は、無意識に危険もしくは迷惑な運転をしていないでしょうか。
そして、多くの車が行き交う道路の上では、多少寛容な心も必要なのではないかと思います。
ここまでながら運転と、あおり運転の法改正について見てきました。
時代の移り変わりとともに、これまで機能していた法律のままでは裁ききれない案件がいくつも出てきます。
2020年の春には、自動車の自動運転の実用化に対応するための規定が整備されます。
自動運転を使用する際も、道路交通法における「運転」に含まれる旨が記載されます。
そして、一定の条件からはずれた場合は、自動運転の使用が禁止され、運転者が運転操作を引き継がなければなりません。
また、自動運転を適切に使用する場合には、携帯電話等を保持しての使用や、カーナビ等の画面注視を一律に禁止する規定が、適用されないこととなりました。
自動運転の普及によって、この規定も大きく改正される日が来るかもしれないですね。
道路交通法はほぼ毎年改正されています。
重大な事故を起こしてしまえば、運転者は法律を知らなかったでは、済まされないこともあります。
そうならないために、道路交通法について、定期的に確認することはとても重要です。
運転ルールに気を付けて楽しいドライブを心がけましょう
筆者:横浜国立大学フォーミュラプロジェクト