自動運転車にも「レベル」がある~自動運転レベルのお話~
乗っている人が何もしなくても目的地まで自動で走ってくれる自動運転車。
それはあまり車に詳しくないという人にとっても、想像の付きやすい理想の車だと思います。
現在、自動運転車が、徐々に現実のものになろうとしています。
自動車メーカーでは現在、高速道路上など限られた条件の下で、車線の維持や、前走車への追従を自動で行ってくれる機能を持った自動車が販売されています。
将来的にはこの技術を発展させ、運転手がいらない自動運転車の市販化を目指しています。
テスラ販売店の充電ステーション
しかし、この自動運転技術の発展に影を落とす出来事が起きます。
2016年5月、アメリカでテスラモーターズという自動車メーカーの車が、高速道路上で「オートパイロット」機能を使用中、対向車線から左折してきたトレーラーに追突し、運転手が死亡するという事故が発生しました。
この事故はテスラ社の「オートパイロット」機能の持つ、「障害物を検知して自動でブレーキを掛ける」という機能が、強い太陽光によって生じた光の反射で、トレーラーが検知されなかったことによって作動しなかったことが原因とされています。
自動運転車が事故を起こした際に、どう取り扱うのかという問題は今後大いに議論の対象となっていくでしょう。
また、そもそも完全な自動運転車って今の日本の法律上走らせていいのか。走らせていいとしても、現在の交通ルールを変える必要はないのか、など根本的な問題も生じかねません。自動運転車の実用化のためには、技術的側面だけではなく、このような社会的側面からみた課題の解決も必要となってくるのです。
このような社会的な課題を議論する際に重要になってくるのは、その自動運転技術の分類です。現在発売されている自動車に限っても、搭載されている自動運転技術は様々です。
これらを一定の基準に基づいて分類しないと、前提となる技術がはっきりせず議論がうまく進みません。
ということで、政府は、自動運転の程度に応じて「自動運転レベル」を定義しています。
本コラムでは、日本における自動運転レベルについて説明していきます。
私がこの文章を書いている「2017年1月現在」の日本における正式な自動運転レベルの定義を表で示すと以下のようになります。
分類 | 概要 | 責任関係等 | 左記を実現するシステム | ||
---|---|---|---|---|---|
情報提供型 | ドライバーへの注意喚起等 | ドライバー責任 | 「安全運転支援システム」 | ||
自動制御活用型 | レベル1:単独型 | 加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行う状態 | ドライバー責任 | ||
レベル2:システムの複合化 | 加速・操舵・制動のうち複数の操作を一度にシステムが行う状態 | ドライバー責任 | 「準自動走行システム」 | 「自動走行システム」 | |
レベル3:システムの高度化 | 加速・操舵・制動全てシステムが行い、システムが要請したときのみドライバーが対応する状態 | システム責任(自動走行モード中) | |||
レベル4:完全自動走行 | 加速・制動・操舵を全てシステムが行い、ドライバーが全く関与しない状態 | システム責任 | 「完全自動走行システム」 |
表-1:自動運転レベルの定義
この表-1は、『官民ITS構想ロードマップ2016』において示されています。
これは政府が、官民で連携して自動運転技術の開発を推進するべく策定した計画です。
2014年6月に『官民ITS構想ロードマップ』を発表して以来、毎年出されています。
その2016年版が、『官民ITS構想ロードマップ2016』というわけですね。
この表は元のものから表現に変更を加えていません。
それ故に少し分かりにくい部分もあるので、細かく解説していきます。
まず、政府は運転支援の手段を
「情報提供型」と
「自動制御活用型」というように分けています。
「情報提供型」というのは、概要部に「ドライバーへの注意喚起等」とあるように、注意喚起を行うのみで、運転操作は全てドライバーが行います。
すなわち基本的には既存の自動車と同じです。高速道路を走行中に、車線からはみ出すとドライバーに警告をしてくれる機能がありますが、これは「情報提供型」のシステムといえるでしょう。
EyeSight-3(アイサイト)のステレオカメラ
車線はみだしを検知し、情報を提供してくれる
「自動制御活用型」というのは、機械が勝手に車を動かすことによって安全運転を助けてくれるものです。
今回のテーマとなっている自動運転車はもちろんこちら側です。
その中でもレベル1から4までわかれています。
○レベル1:単独型
これは「加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行う状態」、すなわちアクセル、ブレーキ、ハンドルを切る動作(曲がる、車線を維持する)のどれか1つを車がやってくれる状態のことです。
現在新車として販売している車には、目の前の障害物を検知して、自動でブレーキをかけてくれる「自動ブレーキ」を搭載したものが多いですが、この自動ブレーキはレベル1に該当します。
表-1の右端にあるとおり、「情報提供型」と「自動制御活用型」のレベル1までの機能を持つシステムは「安全運転支援システム」と定義されています。
○レベル2:システムの複合化
これは「加速・操舵・制動のうち複数の操作を一度にシステムが行う状態」、すなわちアクセルとハンドルを切る動作を一気に機械がやってくれる状態がこれに該当します。
実用化しているシステムで例を示すと、高速道路上で車線を維持しながら、前の車について走ることが出来る機能が挙げられます。
また、まだ日本では市場に出ていませんが、高速道路上を自動で走行するようなシステムも、レベル2に該当します。
このレベル2の機能を持つシステムから「自動走行システム」として定義されるようになります。
実際、高速道路上に限るとはいえ、機械だけの力によって、自動で道を走ることも可能です。
しかしこのレベル2について、最も注意しなければならない点があります。
それは、表-1の責任関係という部分にもあるとおり、運転の責任はあくまでドライバーにあるということです。
すなわち、自動走行モードを使用中でも、ドライバーは周囲の運転状況を監視している必要があるし、仮に事故を起こしたら責任はドライバーに向かうということです。
現在市販している車の自動運転機能はすべてレベル1か2に相当するものです。
これは冒頭に紹介したテスラモーターズの「オートパイロット」機能も例外ではありません。あくまでドライバーによる周囲の状況の監視が求められます。
操作用のパネルがまるで、i-padの様!
オートパイロットで首都高を走る様子
○レベル3:システムの高度化
これは「加速・操舵・制動全てシステムが行い、システムが要請したときのみドライバーが対応する状態」ということで、運転操作の全てをシステムがやってくれるけど、システムからの要請があった場合は、ドライバーが自分で対応する必要があるというものです。責任関係の部分を見てもらえれば分かると思いますが、ここからは自動走行モード中はシステムが運転の責任を負うとされています。システムが正常に作動し、自動走行モードになっている間は、ドライバーはよそ見をしていてもカーナビでテレビを見ていても構わないと考えて良いでしょう。しかし、システムの要請があった場合は対応が必要になるため、システムからの要請に対応できないかもしれないという理由から居眠りは難しいでしょう。
このレベル3相当の機能をもつ車は市販されていません。政府は、2020年を目処にレベル3に該当する、高速道路上など一定条件下では完全に運転を任せきりにできるようなシステムを持った車の市販化を目指しているようです。
ここまでのレベル2と3の機能を備えたシステムは「自動走行システム」の中でも「準自動走行システム」と定義されます。
○レベル4:完全自動走行
これは、「加速・制動・操舵を全てシステムが行い、ドライバーが全く関与しない状態」ということで、“正真正銘の自動運転車”がここにあたります。
システムからの要請に基づいたドライバーの対応すらいりません。
この機能を備えたシステムは「完全自動走行システム」と定義され、“準”の文字が消えます。
政府としては2025年を目処に市販化を目指しているようです。
先ほど、レベル定義を説明する中で、「2017年1月現在」ということを強調しましたが、それには理由があります。
実は、このレベル定義は今年の春頃に発表されるだろう『官民ITS構想ロードマップ2017』においては抜本的な変更がなされる可能性が高いからです。
なんでそんなややこしいことを… と思うかもしれません。
その理由を説明するにあたっては、これまで「NHTSA」と「SAE」という2つの異なる機関から、それぞれ異なる基準で決められたレベル定義が存在していたことを知る必要があります。
NHTSA( National Highway Traffic Safety Administration 国家道路交通安全局)は、1970年にアメリカの運輸省(日本でいう国土交通省にあたるような官庁)に設置された部局のひとつです。
交通事故防止のための取組みを行っています。
この部局の業務の中に安全規格の制定があり、日本はこれまでこのNHTSAによって示されてきた定義を元にしたレベル定義を作成し使用してきました。
一方SAE(Society of Automotive Engineers, inc 米国自動車技術会)は1905年にアメリカで設立された学術団体です。
自動車を中心に幅広く輸送技術に携わる技術者、研究者が所属しています。
日本語訳では「米国」がつきますが、会員が世界中にいる国際的な団体です。
学術会議の開催や、自動車規格(いわゆるSAE規格)の制定を行っています。
エンジンオイルなどの潤滑油のねばりけを示す重要な指標として5w-30とか0w-20といったような数字が使われていますが、これもSAE規格です。
このオイル缶には10w-40と書かれている
SAEは自動運転技術についてもSAE J3016という規格を制定しています。
こちらはヨーロッパや、国連で自動運転技術の国際基準策定のための活動を行う組織である「自動運転分科会」で使用されてきました。
このように、これまでアメリカと日本がNHTSA、ヨーロッパや国連がSAEのレベル定義を使用しているという状況でした。
しかし2016年9月、NHTSAは、定義の一本化のためにSAEによる定義を採用することを決定しました。
これまで日本が参考にしてきた定義を作ってきたNHTSAが、自作の定義の使用をやめますと言った以上、日本もその定義に固執する必要はありません。
ということで、日本もSAEによって示された定義を元に日本のレベル定義を作るという方針が決定されました。
『官民ITS構想ロードマップ2017』においてはSAEのレベル定義を元にした定義が発表されることになるでしょう。
では、日本のレベル定義がSAEを元にしたものになった場合、どのような分け方がなされるのでしょうか。
まずは簡単にSAE J3016の特徴について整理してみましょう。
以上から分かるとおり、DDT,OEDR,ODDという新たな概念が採用されたことで、より細かい分類が可能と考えられます。
一方で、これらの概念の細かい定義や意味合いがはっきりしなければ、ただ分かりにくくなるだけとなるため、定義の確定が問題となってくることでしょう。
『官民ITS構想ロードマップ2017』では、これらの概念を取り入れることは確定していますが、未だ日本語版が出ていないこのSAE J3016を元にどのような表現を使用するのかが気になるところですね。
NHTSAが定義を変更したことに伴う日本の対応案として2016年12月に出された『自動運転レベルの定義を巡る動きと今後の対応(案)』では、元の英語版の表と、政府による仮の日本語訳を合わせて見ることが出来ます。
さて、気になるのが、現状使われているNHTSAを元にしたレベル定義との関係性です。
『自動運転レベルの定義を巡る動きと今後の対応(案)』にはSAE J3016と現行の定義とNHTSAの定義の比較表が掲載されています。
それを元に、SAE J3016と現行の定義の比較表を作成しました。
現行の定義 | SAE J3016 |
---|---|
情報提供型:ドライバーへの注意喚起 | レベル0:運転者による全ての運転タスク(DDT)の実施 |
レベル1:加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行う状態 | レベル1:前後・左右のいずれかの車両制御に係る運転タスク(DDT)のサブタスクを実施。 |
レベル2:加速・操舵・制動のうち複数の操作を一度にシステムが行う状態 | レベル2:前後・左右の両方の車両制御に係る運転タスク(DDT)のサブタスクを実施。 |
レベル3:加速・操舵・制動全てシステムが行い、システムが要請したときのみドライバーが対応する状態 | レベル3:全ての運転タスク(DDT)にかかる、運行設計領域(ODD)限定的な完全自動化。システムの介入要求等に対して予備対応時利用者は、適切に応答することを期待 |
レベル4:加速・制動・操舵を全てシステムが行い、ドライバーが全く関与しない状態 | レベル4:全ての運転タスク(DDT)にかかる運行設計領域(ODD)限定的な実施。ドライバーの対応は期待されない |
レベル5:全ての運転タスク(DDT)について無条件に実施される。ドライバーの対応は期待されない |
表現だけ見ると正直分かりにくいです。
SAE J3016の方の説明が、原文を日本語に訳した上に紙幅の都合上簡略化したからでしょう。
変更点をとても簡単に言うと
「現行定義のレベル4を、運行設計領域(ODD)の範囲によってレベル4とレベル5に分けた」となります。
政府としても、レベル4を4と5で分けたもの、として整理すればいいという見解になっています。
『官民ITSロードマップ2017』でこの見解が変わる可能性もありますが、さしあたりそういう風に考えておきましょう。
電気自動車 + 自動運転の完全普及も近い?!
本コラムでは、NHTSAに準拠した現行の日本の自動運転レベルと、昨年に起きたレベル定義の統一、そしてそれにより日本の自動運転レベルも、統一されたSAE規格を元にしたものに変わるという話をしてきました。
現在、自動運転について取り扱った記事などを見ると、現行のNHTSAベースのレベル定義が使用されています。
今後しばらくは現行のNHTSAベースのものと、今年春以降に採用となる可能性の高いSAEベースの定義が混在することが考えられます。
そのときにこのコラムの内容が理解の手助けとなれば幸いです。
自動運転技術は今後どんどん発展し、それに伴い自動運転車のある社会の在り方についての議論が必要になってきます。
そのときに備えて、自動運転技術に関わる動向については今後も注目していきたいものですね。
以上で、本コラムを終わらせていただきます。
ありがとうございました。
(執筆:名古屋大学体育会自動車部)
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(4月に廃車/1,600cc普通自動車)