こんにちは、北海道大学自動車部です。
今年(2018年)はラリーを題材とした映画が放映され、
世界ラリー選手権(WRC)にはTOYOTAがワークスチームとして参戦しています。
また、そのWRCを日本へ招致しようという動きもあり,
まさに今ラリーが熱い!ということで、
今回のコラムはラリーについて書かせていただきたいと思います。
筆者もコドライバー(後ほど説明します)として、ラリーの地区戦に参戦していますので、
その視点からラリーがどんなものかお伝えすることができれば幸いです。
まずはラリーについて簡単に説明させていただきます。
ラリーは他の自動車競技とは異なり、
ドライバーとコドライバー(ナビゲーター)の二人一組で行う競技です。
コドライバーの指示にそってドライバーが走行し、
いかに早く、また正確に走ることができるかを競う競技です。
ここで、ラリーは主に
○スペシャルステージ(SS)ラリーと
○アベレージラリー
この二つの種類に分けられます。
WRCや全日本ラリーをはじめ現代の主なラリーがSSラリーです。
SSと呼ばれるタイムトライアル区間での速さを競う競技で、レッキと呼ばれる事前走行でペースノートを作成し、それを頼りに全開走行をします。
また、SSとSSの間にはリエゾンと呼ばれる区間もあり、その区間は指定された時間で正確に走ることが要求されます。
ダートトライアルなどのサーキットで行う競技とは違い、公道を占有して競技を行うため、視界の少ない林の中を全開で走行するスリリングな競技です。
決められた道のりを指定された速度でいかに正確に走るかを競う競技です。
道路状況によっても速度が変わってしまうため、ナビゲーターが走行速度を計算し指定された速度へいかに近づけることができるかということが重要になってきます。
途中にあるチェックポイントを通過した時間と指定の時間の誤差が減点されていき、減点が一番少ない者が勝者となります。
現代の主流はSSラリーとなっていて、北海道の地区戦もこちらの形式をとっています。
今後このコラムでは、「ラリー」と書くときはSSラリーを指します。
では、コドライバーとは何か説明させていただきます。その前に、ドライバーが何をするかはわかりますよね? 言わずもがな車を運転するのがドライバーです。
そして、コドライバーはドライバーの手助けをすることが仕事です。受付をしたり、ほかの選手のタイムを把握したり、人によっては宿の手配までもこなしてしまう人もいます。
ドライバーが走りに集中できるような環境を作ることが、コドライバーの重要な仕事というわけです。
ただ、それだけでは漠然としていますよね?
なので、今回は競技中のコドライバーの仕事を
○リエゾン
○タイムコントロール(TC)
○ペースノート
この3つに大きく分けて紹介したいと思います。
ラリーではSSとSSやサービスパーク(車両整備場)の間にリエゾンと呼ばれる区間が存在しています。
この区間では、主催者から配られる、「コマ図」に従って走行しなくてはいけません。SSやサービスパークから次のSSに向かうまでの道を間違ってしまってはSSをスタートすることもできませんからとても大事な仕事です。
コマ図は以下の図のようなもので、目印となる看板や一時停止と、そこをどちらに進むのか、そして距離が記載されています。
普通の地図とは違って道程が全て書いてあるわけではありません。ですので、最初は混乱するかもしれませんが、目印を見落とさないようにしたり、距離をしっかりと計測して道を間違えないように気を付けます。
距離を計測するときにはトリップメータやラリーコンピュータを利用することで、正確に計測することができます。
ラリーコンピュータはスマートフォンやタブレットのアプリでリリースされているものもあるので,手軽に利用することが可能です。
下図は実際にスマートフォンをラリーコンピュータとして利用している様子になります。
ラリーコンピュータアプリ
TCとはSS前やサービス前に設置されている通過確認地点で、ひとつ前のTCで指定された時間にTCに到着しなくてはなりません。
遅く着いてしまったり、早く着きすぎてしまった場合ペナルティが課されるため、指定された時間ちょうどにTCに入らなくてはならず、その時間を管理するのもコドライバーの大事な仕事になります。
ちなみに、時間ちょうどといっても1分間の猶予があることと、目標時間自体が普通に走行していれば間に合う時間に設定されているので、車両トラブルやミスコースなどがない限り、遅れてペナルティを受けることはないので安心です。
ちなみに、時間を記録するタイムカードという紙が配られて、そこにTC通過時間が記入されていきますが、実際にラリーに参戦する際には、下のようなバインダーを使うと便利です。
バインダーとタイムカード
ペースノートとは、SSの情報を書き込んだノートです。ペースノートには下のような、リングノートを使うのが一般的です。
ペースノート
一度のラリーで複数のSSが存在していて、またその総距離は数十kmから数百kmにまで及ぶこともあります。
そのすべてを覚えて走ることは不可能です。ペースノートにコーナーのキツさや直線の距離、路面状況などを記録し、それに従って走ることで全開走行を可能にしています。
まずラリー前にペースノート作成のため、レッキと呼ばれる事前走行を行います。2回のレッキが認められている場合は、1回目で作ったノートを2回目に確認するという流れが一般的です。
SSでは、コドライバーがノートを読み上げ、その情報に従ってドライバーが走行しますが、実際にどのようにノートを読んでいるのかを次に紹介したいと思います。
では、実際にコドライバーがどのようにペースノートを読んでいるかを説明したいと思います。
ただし、実際に聞いてみないとどうなっているのか分かりにくいかと思いますので、動画投稿サイトなどでラリーの車載動画をみてみると雰囲気を感じやすいかもしれません。
実際に動画を観てみた人は、まるで呪文のようで何を言っているのか全く分からなかったかと思います。
理解できないと感じるのにはペースノートのルールを知らないこと、そしてノートが読まれるタイミングが難しいという2つの理由が存在しています。
そこで、これらについて説明したいと思います。
ペースノートには一定のルールが存在しています。
主に以下のように記載するというのが一般的です。
・コーナーの特徴
・向き…左コーナーはL、右コーナーはR
・角度…コーナーのキツさを1~9で記載。1のほうがコーナーのアールが小さく9のほうが大きいコーナー
・長さ…lg(ロング)、wlg(ダブルロング)、sh(ショート)などで長さを表現
・変化…>(タイトゥン、出口に向けきつくなるコーナー)、<(オープン、その逆)
・コーナーのライン取り…KI(キープイン)、cut(インカット)など
・コーナー間の距離
・距離自体を30、50、100、などメートル単位で記載
・連続するコーナーの時:→(「イントゥ」、「すぐ」)、やや距離が開く場合:+(「アンド」、「…から」)
・起伏で先が見通せない場所…C(クレスト)
・ほぼ直線的に抜けられる道のうねり…kinx(キンクス)
・注意すべき箇所…!(コーション)、!!(ダブルコーション)
これらが代表的な情報になります。そのほかにも、グレーチング(排水溝の蓋)や、ダートや水たまりなど車の動きに影響しそうな路面状況の情報などを記載します。
結局はドライバーに伝われば良く、自由作成で問題ありません。ルールという言葉は適切ではないのですが、主にこのように記載しているという例として紹介させていただきました。
最終的に自分に合ったノートを作ることができればいいので、上の例に従わなくても問題ありません。
では以上を踏まえたうえで、実際のノートを見ていただきたいと思います。
ペースノートの例
これは私が実際に使用したノートで、字が汚いのとノート自体が汚れているのは大目に見ていただけるとありがたいです。
このノートは情報が非常にシンプルで分かりやすいかと思います。実際に読むときは以下のように読むことになります。
「スタート アール2 30 エル2ロング 30 アール5 から エル4 30 クレスト すぐ アール5 から エル4 から エル4 から アール5 30 アール4 すぐ エル2ロング」
すべて読み終えたら次のページへいって、ゴールまでこれを続けるという流れです。
実はこのノートは、筆者と筆者が組ませていただいているドライバーが、ラリーを始めたばかりの頃に使ったノートになります。
そのためコーナーの向きと角度と長さ、コーナー間の距離、そしてクレストの情報しか記載していません。
先ほど自分に合ったノートを作ればよいと言いましたが、このノートはそのいい例で、情報を入れすぎてしまうと逆に混乱してしまう、そもそもどんな情報が必要なのかわからないという状況で、自分たちに合ったノートがこれだったということなのです。
では、次にノートを読むタイミングについてお話します。
先ほどノートの例を挙げましたが、スタート直後にすべての情報を読むわけではありません。
コーナーを抜けるたびに、その先のコーナーについての情報を順々に読み上げていきます。早めに先のコーナーまで読み上げることによって、ドライバーはコーナー間のつながりを想像することができるため、ライン取りを考えながら走ることができます。
しかし、それにドライバーによっては混乱を招くことにもつながります。
また、長い直線が挟まれる場合に次のコーナーを読み上げるタイミングの変更や、危険なコーナーについては早めに読み上げるなど、ドライバーが求めるタイミングで臨機応変に読み上げることが必要になります。
この読むタイミングについても、人によって異なり、ドライバーとコドライバー間でのすり合わせが重要となります。
ノートの主な記載方法、そしていくつか先のコーナーを読み上げているということを頭に入れたうえで、車載動画を観ていただけたら先ほどよりは理解しやすくなっているのではないかと思います。
今回はラリーについて、主にコドライバーのことを書かせていただきました。
ドライバーと比べて注目されにくいコドライバーですが、実はとてもおもしろい役目で、いないと成り立たない重要な仕事なのです。
最初に述べたとおり、TOYOTAのWRC参戦や、WRCを日本に招致するという動きもあり、今後国内でもラリーは非常に盛り上がっていくことが予想されます。
ラリーを観戦することがあったら、ドライバーだけではなくコドライバーにも注目してみると、より一層ラリーを楽しめることと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
執筆:北海道大学自動車部