自動車に関する技術はまさに日進月歩。
近年の市販車に標準装備されている安全装備の技術力には驚かされます。
さて、今回見ていくのはそんな最新技術…ではなく、かつて「最新」「ハイテク」と呼ばれた技術たちです。
どのようなものだったのでしょうか。
近年の市販車には安全装備がいっぱい
4WSは一般的に四輪操舵と訳され、前輪だけでなく後輪も操舵するシステムです。
低速走行中に逆位相操舵を行うことにより、非常に小回りの効いた旋回が可能となります。
高速走行中は同位相操舵を行うことにより、後輪のスリップがなくなるため濡れた路面での走行や車線変更が容易となります。
また極低速走行中に同位相操舵を行うことで斜め移動ができ、縦列駐車を容易にすることもできます。
日本車ではセリカ、プレリュード、スカイライン(日産はHICAS-High Capacity Actively-Controlled Suspension-機構と称している。同位相操舵のみのシステムだが一般的には4WSの一種と見なされている)などといった車種にかつて搭載されていました。
昭和61年初版の「続 自動車メカニズム図鑑」(出射忠明 グランプリ出版)では『従来の操作感覚とはかなり異なる面もあり、実用面でも全く未知の世界である。それだけに、これを作る側も使う側も、ともに大きなテーマと興味を抱くことになるだろう。』と紹介されています。
では、平成を振り返ってみて4WSは世間一般に広まったと言えるでしょうか。
残念ながら広く普及したとは考えづらいですね。
原因として考えられるのは4WS機構を搭載することによる車重増や価格の上昇、また同位相操舵を行うと車が斜めに移動したように感じられ、逆位相操舵を行うと後輪が外側に膨らんでしまい狭い場所で駐車しづらくなってしまうという二輪操舵との違いが「運転しづらい」と捉えられてしまったことなどが挙げられます。
F1マシンに4WSが搭載されていたこともある(現在はレギュレーションにより禁止)
キャブレターそのものについては以前のコラムで取り上げたため詳細は省きます。
従来のキャブレターが流入する空気の量により吸い出される燃料が自動的に決まってしまうのに対し、コンピューターで空気の量を調節することで燃料の量を最適化するのが電子制御式キャブレターです。
各メーカーがそれぞれの名前(例:日産はElectronic Controlled Carburetor、トヨタはElectric Air Control Valve)で『キャブは電子制御が主流に』と平成元年初版の「自動車ハイテク図鑑100」(浦栃重夫、橋口盛典 山海堂)で紹介されていますが、今となってはキャブレター車そのものが消えてしまいました。
かつてのヘッドライトといえばレンズ面が地面と垂直だったり、ヘッドライトの最低地上高に関する規則があったり、その他様々な要因があったりしてフロント部のデザイン上大きな障害となっていました。
そこで普段はボンネット内に格納されていて、点灯時のみ展開されるヘッドライトが有効だと考えられた訳ですね。
このヘッドライトにすることで空力性能はよくなりますし、その独特のフォルムは何といってもカッコいい!
NSX、スープラ、GTO、ロードスター、スプリンタートレノといった人気車種に搭載されていました、がこれらの車種は全てマイナーチェンジやフルモデルチェンジの際にリトラクタブルヘッドライトではなくなっています。
なぜでしょうか。
実はヘッドライトを動かすためのモーターなどによる車重増、光軸がずれやすい、歩行者と衝突した時の危険性などといったデメリットがあるだけでなく、技術の進歩によりヘッドライトの造形がかなり自由になったためにそもそものメリットすら薄れてしまったのです。
セリカ(WRC仕様)リトラクタブルヘッドライトを展開させている
セリカ(WRC仕様)フルモデルチェンジ後はリトラクタブルでなくなった
今となってはスマートフォンを持っている人を珍しいとも何とも思わないと思いますが、かつては携帯電話があることが当たり前ではなかった時代がありました。
そんな時代に電電公社などがサービスを提供し活躍したのが自動車電話です。
ショルダーフォン(バブル期の流行をネタにしているお笑い芸人が持っているアレ)をインパネやセンターコンソールに搭載したようなもので、シーマやソアラといった「ハイソ」な車種にオプション装備され、多くのビジネスマンが憧れを抱いたことでしょう。
携帯電話が当たり前の時代になってからは自動車電話をわざわざ使う人はなかなかいないでしょうが、NTTドコモは2009年7月31日をもってサービスの新規申し込み受付を終了し、2012年3月31日にサービスを終了しています。
案外最近まで残っていたことに驚かされますね。
ちなみに東京都墨田区にある「NTTドコモ歴史展示スクエア」にはショルダーフォンや自動車電話が展示されているそうです。
今や博物館モノの技術なのですね。
皆さんは走行中にラジオを聞きますか?
ラジオを受信するために必要不可欠なアンテナにも技術の進歩が見られます。
近年では空気抵抗の少ないサメの尾びれのような形をしている「シャークフィン型(ドルフィン型とも)」やショートポール型、フロントガラスに張り付けるフィルム型、コスト削減を徹底している商用車なら手動で伸ばすタイプのアンテナなどが採用されています。
ショートポール型のラジオアンテナ
かつては電動伸縮式のアンテナがありました。
インパネのスイッチを押したり、ラジオのスイッチに連動したりして、ラジオを聞くときだけアンテナを伸ばすというものです。
この電動伸縮式の長所は駐車時にアンテナを縮め忘れることがなく、いたずらや不慮の事故によってアンテナが折れてしまう心配がないことです(近年はルーフ上やAピラー部にアンテナがあることが多いが、かつてはフェンダーやバンパー付近に設置されていることが多かった。)
ですが、アンテナが折れる事故を防ぐためにはそもそものアンテナを短くする方が有効だ、ということで前述のアンテナたちに取って代わられていったのでしょう。
余談ですが、リアフェンダー部やルーフ上にV字のような形をしたアンテナを装着した車を見たことはありますか?
あれはラジオアンテナではなくカーナビでテレビを見るためのアンテナで、「ダイバーシティアンテナ」と呼ばれるものです。
近年ではガラスにフィルム型のテレビアンテナを貼ることがほとんどですが、受信の感度はダイバーシティアンテナの方が優れているそうです。
「ロータスのアクティブサスペンション」「ウィリアムズのリアクティブサスペンション」と聞くと、日本で起こったF1ブームを思い出される方もいるかもしれませんね。
アクティブサスペンションの先駆者ロータス
三菱はECSという、ショックアブソーバーの減衰力とバネレートの可変機構を備えた電子制御サスペンションを送り出しています。
エアバネの空気を出し入れしてローリングとピッチングを防ぎ走行条件が変化しても車の姿勢を一定に保つというしくみで、Gセンサーや車速センサーなどの様々なセンサーからもたらされる情報をコントロールユニットで判断し、姿勢制御の指令を出しています。
平成元年1月初版の「自動車ハイテク図鑑100」(浦栃重夫、橋口盛典 山海堂)では「アクティブサス機能はオートレベライザー機能を備えたエアサスなどと近いものになるが、近い将来、一般乗用車にも搭載される可能性を持っている」「トヨタ、スバルなどすでにエアサスペンションを実用化して実績のあるメーカーが国内に存在しているが、そうしたメーカーにとってアクティブサスの実用化は、それほど難しい技術ではないとみられる」と紹介されていて、実際にトヨタは同年に「トヨタアクティブコントロールサスペンション」をセリカに採用しています。
アクティブサスペンション機構は重量増や価格が高くなることなどから一般的な車に採用されることはなくなりましたが、乗り心地の良さは確かなので現在でも一部の高級車に採用されているそうです。
様々な技術を見てきましたがいかがでしたでしょうか。
今となっては珍しく、また懐かしいものもあったと思います。
近年見かけることがなくなってしまった技術は無駄だったのかと言うと決してそんなことはなく、そこからさらに新しい技術に発展して現代へと繫がっていきました。
また、日本では一度廃れかけた4WSはレクサスやメルセデスベンツ、BMWといった様々なメーカーの現行モデルで採用されています。
現代の技術進歩に興味をもつことは大変すばらしいことだと思いますが、温故知新、先人たちの創意工夫に思いをはせるのもたまにはいいのではないでしょうか。
車は進化を止めない
執筆:名古屋大学自動車部