みなさんこんにちは、北海道大学自動車部です。エコカーブームは留まるところを知らず、ハイブリッド車や電気自動車が当たり前の時代となりました。しかし、ガソリンを燃やして、魂を燃やして駆け抜ける時代遅れな車たちは、依然として私たちを魅了し続けてくれています。今回はそんな車のひとつ、【ホンダ:シビック】についてのお話です。
シビックといえばホンダを代表するスポーツカーのひとつで、初代シビックの発売は40年以上前まで遡ります。また最新型のシビックが2017年に発売され、ファンを沸かせたことは記憶に新しいです。そして今日の主人公となるのは1991年から1995年まで販売されれていた、5代目にあたるシビックEG6です。
このモデルはFFながら某有名なドリフト漫画にも登場するなど、多くの人々に愛されてきました。その魅力は、なんといってもエンジンにあります。搭載されているのは、“B16A型/1.6L/DOHC/VTECエンジン”で、170馬力/7800回転を絞り出すホンダの傑作エンジンです。さて、生まれたばかりの赤ん坊でも知っている話はこのくらいにしてさっそく本題に移っていきましょう。
5代目:シビックEG6
筆者自身もEG6に乗っていましたが、ある日、ひょんなことからエンジンブローしてしまいました。幸い手元に別のVTECエンジンが転がっていたため、載せ替えてみることに。その新しいエンジンとは、“B16B” ── 後継のEK9(6代目シビックType-R)に搭載されているワンランク上のVTECです。
さっそく載せ替えの方法をググってみるも、EG6のB18C換装はいくらかヒットしますがB16B換装は見当たりません。悩んでいても仕方ないので、手探りで載せ替えを始めました。今回はその様子をまとめていこうと思います。※レシピエントのEG6は前期型、ドナーのEK9は後期型です。
ではさっそくブローしたB16Aを下ろしていきます。まずジャッキアップして、エンジンオイル、ミッションオイル、クーラントを抜きます。お約束ですが、車をジャッキであげたままの状態で作業するのは危険なので、必ずウマをかけましょう。さらに保険をかけて、タイヤを車の下に敷いておくと安心です。オイルが垂れ切るのを待っている間に、ボンネットを外してバッテリーを取り外せば、下ごしらえは完了です。
下ごしらえ終了時のエンジンルームの様子(後付けの配線が目立ちます)
バッテリーは、最初に取ってしまうのが良いです。このあとハーネスを外す作業が待っていますが、このときバッテリーを外すのを忘れているとショートの原因になります。
次にエンジンを下ろすのに邪魔になる、補器類を外していきます。
具体的には、エアクリーナー(エアクリ)・ラジエター・オルタネーター・エアコン(コンデンサー/コンプレッサー等)(ついていれば)・パワーステアリングポンプ(パワステ)(ついていれば)・エキゾーストマニホールド(エキマニ)・インテークマニホールド(インマニ)・インジェクターなどです。
インジェクター周りを外すとき、当然ながらガソリンが少しこぼれてきますので火気には十分気をつけてください。また、エキマニにはO2センサーが付いていますから、これも忘れず外すようにしましょう。エンジンとミッションは、繋げたまま下ろせるのでミッションを外す必要はありません。デスビや、セルモーターのような、エンジン・ミッションに直接ついている部品もつけたままで大丈夫です。ただし、レリーズシリンダーは外します。
レリーズシリンダー
(※筆者はインマニの下にあるハーネスや、配管を外しやすくするためインマニを外しました。 インマニをつけたままでもエンジンは下ろせるかもしれませんし、そうしたほうが楽な気もします。 というのも、インマニをエンジンと留めているボルトの一部はとてもアクセスしにくい場所にありインマニの脱着には骨を折りました。)
補機類を外せたら、次はその下に見えてくるハーネスやら配管やらをエンジンから外していきます。 インマニを外さなかった場合、この工程が少し面倒かもしれません。上から見て外せそうなものを外し終えたら、今度は車の下にもぐってドラシャを外していきます。助手席側はインターミディエイトシャフトが、ブラケットを介してボルト3本で固定されています。これも、一緒に外してしまいます。
ドラシャを外したら、補機類の時と同様に今度は下から邪魔なハーネスなどを外していきます。外すものは、センサー数個とブローバイタンクぐらいです。ブローバイタンクは、エキマニの上あたりについている黒い箱です。とにかくエンジンを下ろすときに邪魔になりそうなものは、片っ端から外してしまいます。ただし次のエンジンを載せたとき、何がどこについていたか思い出せないと一気に難易度が上がってしまいます。したがって外す前に写真を撮っておくなり、マジックペンで印をつけておくなりしておきましょう。
それからシフトリンケージも外します。2本のうちの1本はミッションに留められているボルトを外せば簡単に分離できますが、もう1本は少し厄介です。ブッシュの下に隠れているスプリングピンを抜けば外せるようですが、このスプリングピンが曲者で、ボルトをあてがってハンマーで叩いてもビクともしません。そういう時は、ミッション側で分離するのは諦めてシフトノブ下から外しましょう。こちらは、ボルト1本外すだけで済みます。ミッションからリンケージが1本垂れ下がった状態になりますが、問題はありません。
スプリングピンが刺さっている場所(矢印部分)
さて、ここまで終わればもう大詰めです。エンジンマウント・ミッションマウントを外していきます。EG6のエンジンとミッションは左右1か所ずつとインマニ下2か所(エンジンとミッションそれぞれ1か所ずつ)と右フロント下部(ミッション)、左フロント下部(エンジン)で固定されています。まずインマニ下と左右フロント下部のマウントを外してしまって、その後左右のマウントを緩めていきました。
インマニの下部(邪魔なものを外すとこんなにスッキリ)
当然マウントを緩めていくと、エンジン・ミッションは重いため下に沈んでいきます。エンジンクレーンで、エンジンを吊りながら作業する必要があります。
マウントをすべて外したら、エンジンを引き上げます。スペースに余裕が無いので、エンジンがまわりにひっかからないよう調整しながら少しずつ吊り上げていきます。
無事生まれてきたB16A
話は、すこし脱線します。このエンジンは大雨の中での競技中に、フルスロットルで水たまりに突っ込んだところウォーターハンマー現象によって、コンロッドがダメージを受けました。競技の直後には、エンジンは通常通り始動したため致命傷は避けられたと安堵しました。しかし、数日後に行われた別の競技中において全開走行にコンロッドが耐え切れずに砕け、その破片によってブロックまで割れるという、見事なエンジンブローをしてその生涯を終えました。皆様も、水たまりには十分注意してください。エアクリの入り口をすこしふさいで水が直接入ってくるのを防ぐだけでも大きな効果があります。
また、エンジンがダメージを負っている可能性があるとき(エンジンに限った話ではありませんが)は、十分に点検・整備を行ってから乗るようにしましょう。もしも公道で車が壊れたりすると、非常に危険です。
砕けたエンジンブロック
もともとのエンジンを下ろせたら、次の新しいエンジンを準備します。そのへんに転がっているEK9から調達するか、オークションサイトを利用するなどしましょう。私は前者の方法を選びました。
同様の手順でエンジンを下ろします。B16AとB16Bは、基本的な構造は同じため手順は省略します。
赤いヘッドのB16Bを回収します
新しいエンジンを調達したところで、いよいよ乗せる作業を始めていきます。先ほども述べましたがB16AとB16Bは、基本的には同じ形なので、エンジン下ろしの工程を逆に辿っていくだけになります。「基本的には同じ」と言いましたが、一部には違いがあるのでまとめていきます。
① ミッションマウントの固定方法が違う
これは特に気にしなくて大丈夫でした。ミッションからボルトが突き出ているか、ボルトを突き刺すのかというだけの違いです。
② パワステのブラケットの大きさが違う
言われないと、気づかないポイントです。ぱっと見は同じですが、B16B用のほうが一回り大きくなっています。B16Aのものは、流用できませんでした。
③オイルプレッシャースイッチの形状が違う
センサーの形状が異なります。エンジン載せ替え後に、EG6のハーネスを使う場合には、B16Aのセンサーをクルクル回して外しB16Bののセンサーと付け替えましょう。
プレッシャースイッチはオイルフィルターの直上にあります(矢印部分)
④スパールバルブの構造が違う
“B16A”と“B16B”で、大きく異なるのはこの部分です。B16Aからは配線が2本です。B16Bからは配線が1本です。私はEGのハーネスをそのまま使いたかったため、スプールバルブをB16Aのものに付け替えました。スプールバルブはVTECの切り替えを制御する重要な部品なため、ここを適当に済ませてしまうとカムの切り替わらないただのNAになる可能性があります。補足ですが、スプールバルブを止めているボルトはとても低いトルクで締められていますので、取り付けの際にはねじきらないよう気をつけましょう。
スプールバルブはデスビの横についています(矢印部分)
⑤デスビの配線が違う
これも重要な相違点です。デスビはエンジンの点火系を制御する部品です。B16A用とB16B用ではカプラの形状が異なります。おとなしくB16Aのものを使えば悩まずにすむ問題ですが、私の場合エンジン載せ替えに伴ってなぜかB16Aについていたデスビが突然死したためB16Bのものを使わざるを得ませんでした。B16A用、B16B用ともに配線は10本あります。B16Aは2本と8本で2つのカプラになっています。B16Bでは10本の1つのカプラになっています。カプラに刺さっているピンは爪を押してあげると簡単に外せますので、都合の良いほうのカプラに差し替えましょう。
B16B用のデスビのカプラ 配線の色はB16Aと共通である
以上の5点を押さえて、バラした通りに組みなおせば載せ替え完了となります。簡単でしたね。しかし実際にやってみると、なぜかそう簡単にはいかないものです。最後にエンジンがうまく始動しない、いくつかの例とその原因を挙げていきます。
これはもっとも頻発する問題です。原因はいくつも考えられますが燃料がちゃんと来ている場合、シビックに特有なのがアース不良です。セルモーター付近に見落としがちなアース線があります。確認してみましょう。また、デスビの突然死の可能性も考えられます。シビック乗りなら予備のデスビを持っているはずなので、それと交換して様子を見ましょう。
このような場合に疑わしいのは、吸気系です。スロポジセンサー、MAPセンサーはそれぞれ正しく接続されていますか。実は、スロポジセンサーとMAPセンサーは共にスロットルボディ上の近い位置についているのですが、恐ろしいことにカプラの形状が同じなのです。なにも考えずにつなげてしまうと、2分の1の確率で間違えます。外す際に、どっちがどっちだったか印をつけておくと安心です。
これも頻発する問題です。まずはダイアグをとってみましょう。助手席のグローブボックスの下、ドア寄りの場所になにも刺さってない2極のカプラがあります。イグニッションONの状態にして、その2極のカプラを短絡(針金かなにかで2つの極同士をつなげる)させるとエンジンチェックランプが点滅を始めます。「ダイアグノーシスコード=(長い点滅)×10 +(短い点滅)」と、なります。
難しい書き方をしてしまいましたが、長い点滅が10の位、短い点滅が1の位を表しています。たとえば、2回長い点滅のあとに短く1回点滅したら「21」を表しています。これをEG6のコード表と照らし合わせると「VTECスプールSOL.V異常」です。長い点滅が無くていきなり短い点滅が6回起こると「06」を表しています。これは「水温センサー異常」となります。実はこの「VTECスプールSOL.V異常」および「水温センサー異常」が出た場合、疑うのはスプールバルブ付近の配線です。ここもごく近い位置に、同じ形状のカプラが隣接しています。この2つを逆につけてしまうと、先ほど述べたエラーが出るのです。
ECU自体の問題の可能性があります。私の場合、補器類をすべてEG6(B16A)用にしてECUもEG6のものを使っていますが支障はでていません。VTECの切り替わりも5600回転から6000回転へと変わっています。しかし某ショップに、お聞きしてみたところ、「エンジンを載せ替えるならECUもそれ用(EK9のもの)にするのを推奨する」というご意見をいただきました。ですので個体によっては不具合がでることも考えられます。(不具合なく走っていてもエンジンに負担をかける可能性もあり)ECU変換ハーネスを使えば簡単にEGにEK用のECUがつけられますので、ECUの変更も一緒にしてしまうのが良いでしょう。
いかがでしたでしょうか。“B16A”から“B16B”への載せ替えに関してはとくに難しい事もなく、ボディ加工の必要もありません。ひととおり工具のそろっている方は、EGシビックのパワーアップにトライしてみてもいいかもしれませんね。“B16A”は、最高出力:170PS/7,800rpm、最大トルク:16.0kgf·m/7,300rpmですが、“B16B”は、最高出力:185PS/8,200rpm、最大トルク:16.3kgf·m/7,500rpmですからね。実際に作業する場合は安全に十分配慮し、各部の付け忘れ、締め忘れなどないよう気をつけてください。また“B16A”から“B16B”への変更は、構造変更の手続きをする必要があります。ご注意ください。それでは皆様のより良いシビックライフを、お祈りしております。
執筆:北海道大学自動車部
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