こんにちは、静岡大学自動車部です。
クルマのおしゃれもまずは足元から始めるのが基本ということで、愛車のカスタマイズの定番として挙げられるのがホイール交換です。
また、様々ある軽量化の方法の中で最も簡単にして効果的だと言われているのがホイール交換です。
ホイールやブレーキをはじめとしたバネ下重量の軽減は、車の運動性能に対して大きく貢献します。
「バネ下1kgの軽量化は、バネ上(つまりボディ)10kgの軽量化に相当する」というフレーズがあるほどです。
これは、バネ下を軽量化するメリットがいかに大きいかを象徴したフレーズと言えます。
身近なところで言うと、より軽い靴を履いた方が走りやすいということに相通じます。
車も同様で、バネ下と呼ばれるサスペンションがストロークする際に動く部品の重量が軽いほうが良いです。
クルマの軽量化は、加速や燃費性能、ハンドリングの向上といった様々なメリットがあるのは間違いありません。
そのため、低燃費を競う乗用車から、速さを競うレーシングカーまで、どのメーカーも車両の軽量化に取り組んでいます。
スタイリッシュなホイール
一般的な“スチールホイール”は、強度面において利点があります。
スチールホイールに比べアルミホイールは意外に欠け・割れ・クラックの発生が多いです。
スチールホイールは、デザインをクルマに合わせて変える必要もなく規格品として大量生産ができ安価に製造が可能です。
アルミホイールがここまで普及していれば量産効果で、かなり安くなっているはずで、スチールにするメリットはないように思います。
しかし実際のところ、製造コストについてはまだスチールホイールと樹脂ホイールキャップの組み合わせのほうが安いです。
ディスクブレーキとドラムブレーキも同じような関係にあって、ここまでディスクブレーキが普及してもまだドラムブレーキのほうが安いです。
一般的に重量が重いためアルミホイールより、燃費性能や運動性能は悪くなってしまいます。
しかし、安価なアルミホールと比較すると、必ずしもスチールホイールの方が重いとはいえません。
他に、デメリットとしては錆びやすいことや加工しにくいためデザイン性が低いことなどが挙げられます。
また、スポーツ走行においてはブレーキの冷却が重要ですが、スチールホイールの場合はスポークがなく、小さな穴があいているだけです。
これでは熱がこもってしまい、ブレーキ性能の低下に繋がります。
スチールホイールを装着したカローラ
そもそもホイールの素材として、アルミニウムを使う理由は何故でしょうか。
アルミニウムは、鉄(スチールホイール)と比較して様々なメリットがあります。
まず、軽量なことが挙げられます。通常のスチールホイールからアルミホイールへと交換するだけでも、車のバネ下重量が軽減され、加速性能や燃費性能、ハンドリング性能の向上といったメリットが得られます。
自動車のホイール素材として重量は重要なポイントであり、機械部品などに使用する材料を加工して必要なかたちにするには、鍛造・機械加工・鋳造といったいくつかの方法があり、それぞれに特有のメリットやデメリットがあります。
また、最初からアルミホイールが装着されている車でも、鋳造(ちゅうぞう)製法のアルミホイールから鍛造(たんぞう)製法の軽量ホイールへと交換することで、さらなる軽量化効果を得ることができます。
軽量で性能の良いホイールと言えば鍛造ホイールですが、鍛造ホイールと鋳造ホイールは何が異なるのでしょうか。
鋳造法(ちゅうぞうほう)は、金属加工法の一種で金属を溶かして、砂や粘土、鉄などの金属で作った鋳型の中に流し込んで冷やして固める物で、様々な形を自由に作り出せる魔法のような技術です。
型に入れて冷やすゼリーのような物です。
鋳造(ちゅうぞう)によって作られた物を、鋳物(いもの)といいます。
鋳造は青銅から始まったとされていて、18世紀の産業革命で鉄の鋳造が様々な機械に利用されるようになり、19世紀にアルミニウムやマグネシウムなどの軽合金が発明されると、自動車や飛行機などに軽合金鋳物が使用されるようになりました。
鋳造は日本でも古くから行われていて鍋、釜、大仏などが鋳造で作られてきました。
現在、身近なところでいうと水道の蛇口、ドアノブなどが鋳造で作られています。
自動車でいうと、ホイールのほかにもエンジン部品のシリンダーヘッド、シリンダーブロック、ピストン、ピストンリング、ミッションギア、ミッションケース、デフケース、ブレーキディスクなども鋳造で作られています。
鋳造では1回で1g以下の小物から数百トンの大型の鋳物を作ることが可能です。
鋳造の一番の特徴は、溶融金属を用いた加工法であることから、切削などの加工法と比較して量産性や形状の自由度が高く安く作ることができることです。
反面、鋳造法は溶融金属を用いるので凝固時と高温からの冷却時の熱収縮が大きくなり、製品の寸法精度とともにゆがみも問題になります。
また、鋳物が固まるときに冷却が一様に進行しない場合は、収縮量も均一にはならないので、内部に“ひけ巣”と呼ばれる空洞ができる可能性があります。
しかし、これらの欠点を改善し、自動車・船舶・鉄道・工作機械などの機械部品をはじめ、建築金物、家庭用品まで様々な分野で利用されています。
自動車に利用される鋳物の多くはエンジン周りにあり、部品点数としては100点以上と言われていて、自動車に使われている銑鉄鋳造品は総重量の約10%を占めていると言われています。
強度は鍛造と比べて落ちますが、大量生産に適するので複雑なデザインを、比較的安価に実現できるのが強みです。
また、基本的に溶かせる物ならば何でも鋳物にできます。廃品は熔解して再び製品に鋳造することも可能です。
鋳物であるミッションケース
鍛造法(たんぞうほう)は、金属をたたいて成型する加工法です。
このたたく作業を「鍛える」というので、「鍛えて造る」ことからこの製造法を「鍛造(たんぞう)」と呼ぶようになりました。
およそ6000年前のエジプト文明やメソポタミア文明の遺跡から、鍛造された金属が出土しています。日本でも弥生時代の後期から、青銅や鉄の鍛造品を製造してきました。
高い強度が求められる刀や鉄砲などの武器や、鋤(すき)や鍬(くわ)などの農具が鍛造で作られてきました。
鋳造、鍛造どちらでも同じかたちの部品をつくることはできますが、たとえ同じ見た目のものをつくっても、両者には大きな違いがあります。
鍛造と鋳造を分ける一番の違いは、“強度”です。
鍛造はたたく過程で金属の結晶を整え、気泡などの内部欠陥を圧着され、また結晶も微細化され、粘り強さが生まれ機械的性質の優れるようになります。
「鉄は熱いうちに打て」と言われているように、鉄を打つと強くなることは昔から知られています。
素材をハンマや金型などで圧力を加えて塑性流動させて目的の形状に成形する方法が鍛造加工で、ハンマなどを用いて手作業で行う自由鍛造やプレス機械と金型を用いる型鍛造などがあります。
小型の鍛造プレス機
鍛造の加工法には、主に“熱間鍛造”と“冷間鍛造”の2種類があります。
通常、高温で加熱した金属は柔らかくなると結晶が正常な形に変化し、この状態を再結晶と呼びます。
再結晶の状態となった金属は加工がしやすい状態になっており、この状態で行う鍛造を熱間鍛造、再結晶する温度以下の常温で成形する鍛造加工を冷間鍛造と呼びます。
熱間鍛造では、加熱して金属が柔らかくなった状態で加工するため、自由自在に製品を製造することが可能です。
また、加熱され、柔らかくなった状態で何度も叩くことで、金属内部の結晶粒が細かくなり、ムラがなく、均質に仕上げることも可能となります。
一方で冷間鍛造では、金属の表面がきれいに仕上がるという特徴があるため、寸法や形状の精度を高めることができるという特徴もあります。
しかしながら、常温に近い状態になった金属は固く、加工もしにくいため、叩きすぎると割れてしまう可能性が高いです。
鋳造ホイールと、鍛造ホイールをまとめると下記のとおりです。
鋳造ホイールのメリット
・コストが低い
・大量生産ができる
・デザイン性の高いホイールを製造
鋳造ホイールのデメリット
・製造工程の中で「巣」と呼ばれる空洞や穴ができてしまう可能性がある
・鍛造ホイールと比べると強度が弱くなる
・強度を高めるためには肉厚を厚くする必要があり、重量が重くなる傾向がある
・精度が低い
鍛造ホイールのメリット
・強度が高い
・軽量化が可能
・乗り心地の向上
鍛造ホイールのデメリット
・高価である
・デザインの自由度が低い
多くのメーカーに純正採用される品質の高さと、安定性(真円性が高く、かつディスク部、ドラム部ともに高剛性)という性能があります。
BBSが採用している鍛造は、密閉鍛造と言う技法です。
密閉鍛造とは、プレス機の中に金属の逃げ場を無くすことで、金属自体の密度を非常に高く保てる方法で、日本ではBBSのみが採用しています。
これは現状での鍛造方法の中で、最も強度を保てる手法であり、ホイールのように軽量かつ高い剛性が求められるパーツには最適です。
レーシングカーに装着されたBBSホイール
RAYSは1973年の創業以来、ホイールの国内生産を一貫して続けています。
"The concept is racing"を経営理念に掲げており、SUPER GTなどの著名なレースで自社製ホイールを積極的に供給しています。
そこで得た技術やノウハウを市販モデルへフィードバックすることで、高性能なアルミホイールを次々と開発しています。
RAYSを代表するスポーツホイールが『TE37』です。
発売当時は15インチモデルの重量が3.7kgと、規格外の軽さで話題になりました。TE37の発売後、世界中のホイールメーカーが、TE37をベンチマークとしたホイールを開発しました。
TE37は、まさにRAYSの最高傑作だと言えます。
RAYSの鍛造ホイールTE37を装着したMR-2
生産量は年間約2,500万本であり、世界トップのシェアを誇ります。
独自のアルミホイール製造方法にMATプロセスがあります。
これは、鍛造ホイールや2、3ピースホイールのリム成形に用いられるスピニング製法を応用したもので、鋳造ホイールでありながら、鍛造ホイールの強度と軽さを実現させています。
ENKEIの鋳造ホイールRC-T5を装着した部車
ホイールの軽量化には、走行性能や燃費の向上など様々なメリットがあります。
スチールホイールの車は鋳造ホイールに、鋳造ホイール車は鍛造ホイールに交換してみてはいかがでしょうか。
また、近年カーボンホイールの開発も進んでおり、アルミホイールからカーボンホイールへ、スポーツカーの足もとがより軽快に変化していくのも遠くはないでしょう。
そんな軽快なホイールと共に、楽しいドライブを続けたいですね。
執筆:静岡大学自動車部