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身近だけどよく知らないねじの話
ねじ

普段乗っている車に間違いなく使われている部品とはどのようなものがあるでしょうか?

その一つに挙げられるものとして、「ねじ」があります。

今回は、普段あまり意識することのないこの「ねじ」に着目してみます。

ホームセンターなどに行くと様々な種類のねじが売られています。
・木工で使用するねじ
・コンクリートに使用するねじ
・工業製品に使用されるねじ
といったように、目的によって形状は様々です。

それでは、自動車にはどのようなねじが使われているのでしょうか。

多種多様なねじのうち、自動車に使われることの多いものに焦点を当てて見てみましょう。

ねじの規格

ねじには規格があります。

もちろん、一般に工業製品に使われるねじにも規格があり、ねじの多くはJIS規格(日本工業規格)によって定められた「一般用メートルねじ」という規格のものが使われています。

規格によって決められている値はいくつかありますが、重要なのが「呼び」と「ピッチ」です。

「呼び」とはねじの山の部分の直径であり、例えば山の直径が10 mmであったら、“M10”と表記します。
「ピッチ」とは山の間隔を示しており、メートルねじではミリメートル単位で表記します。

以上を合わせると“M10×1.5”といった表記となり、山の直径が10 mm、「ピッチ」が1.5 mmであることを示しています。

ねじ部の長さは用途や使用する箇所によって様々です。

また、同じ呼びでもより「ピッチ」が細かいものもあるので、ねじを購入する際は呼びや長さだけでなく、「ピッチ」がいくつなのかを確認する必要があります。

ねじの分類

まず、自動車などを組み立てるには、必ず「お(雄)ねじ」と「め(雌)ねじ」が必要です。「おねじ」とはいわゆるねじ、ボルトのこと。
「めねじ」とはナット類のことを指します。

部品によっては部品自体に「めねじ」が切られており、そこに「おねじ」を組み込むことで締結することもあります。
 その「おねじ」の中にも様々な種類があります。簡単に分類をすると以下のようになります。

ねじの分類

ねじの分類

ねじの分類の図では2種類の色分けがされています。

赤色の中では主にねじ頭部の形状の違い、青色の中では主にねじ部の規格の違いがあります。
まずは赤色のグループについて見ていきましょう。
赤色のねじは主にねじ頭部の形状が異なるため、締結の際に使用する工具も異なってきます。

六角ボルトはその名の通り頭部が六角形の形をしています。
締結の際にはスパナやソケットを使用しますが、後述する六角穴付きボルトに比べて力がかけやすく、自動車には最も多く使われているねじのひとつです。
六角形の対辺の長さもJISによって基準寸法が決められており、呼びによって「ミリメートル」単位で変わっていきます。
次に示す六角穴付きボルト(キャップボルト)は先程とは逆で、頭部に六角形の穴が開いており、そこに六角形の棒状の工具(六角レンチ)を差し込み回すことで締結を行います。

一般に、同じ呼び径では六角ボルトに対して六角穴付きボルトの方が対辺の大きさが小さいので、締結の際に必要な力は大きくなりますが、六角形の全体が接している分安定した締め付けが出来ます。
また、スパナを回すことに比べて作業スペースが少なくて済むので、狭いスペースでもコンパクトに収めることができます。

六角穴付き止ねじは、六角穴付きボルトと同様に六角レンチを使用して締結します。
横から見ただけではねじ部だけしかないように見えますが、ねじの上部に六角穴が空いています。
このねじは、締めこむことで先端が相手部品に接触し圧力をかけることで、相手部品を固定する場合に使用され、シャフトやギアなどの回転物を固定する際に多く使用されます。

先端の形状にも種類があり、尖っている形状のものは、相手側部品の溝に入り込み回転を抑制するといったように、用途や設計によって適したものを選ぶ必要があります。

最後に小ねじですが、頭部に十字(もしくは一本線)が切られており、そこにドライバーをあてがうことで締結を行います。
ねじと言われてぱっと思いつくのはこの形状かもしれません。

皆さんもドライバーを使ってねじを締めた経験はあるかと思いますが、回転軸の中心が得られるため締め込みは容易であるという特徴があります。

ただし、トルク(締め付け力)管理が難しい面がある他、前述のボルト類とは対照的に締め込み時に押し込む力が必要となるため、バイクの外装など弱い相手に使用すると相手側部品に無理な力がかかることになり部品を痛める可能性があるので注意が必要です。

左から六角ボルト、六角穴付きボルト、六角穴付き止ねじ、小ねじと各種工具

左から六角ボルト、六角穴付きボルト、六角穴付き止ねじ、小ねじと各種工具

次に青色の分類を見てみましょう。この二種は先程まで出てきたメートルねじの規格ではないものです。
まず、テーパねじはねじ部が円錐形状になっていることが大きな特徴で、JIS規格において、サイズはインチを用いて表します。

これらは主に配管部品に使われています。

なぜ配管部品にはテーパねじが使われるのでしょうか?

それは、テーパ形状にすることで締め付けによって「おねじ」と「めねじ」の隙間がなくなり、液体の漏れを防ぐことが出来るからです。

自動車ではブレーキ部品や燃料部品に使われていることが多いです。

ブレーキ用のテーパねじアダプター

ブレーキ用のテーパねじアダプター

タッピンねじは見た目は小ねじと似ていますが、先端の形状や「ピッチ」が大きく異なります。

一般的に、締結の際には「めねじ」部分に「おねじ」を組み込むことで締結を行いますが、タッピンねじは、小さな穴(下穴)をあけたところに自分で「めねじ」を切りこみながらねじ込むことが出来ます。
そのため、内装などのプラスチック部分や、自動車ではほとんどないですが木材相手などに使用されます。
自らが切ったねじと合うため緩みにくいですが、何度も取り外しをするような場所には向いていません。

左が小ねじ、右がタッピンねじ。「ピッチ」の違いは一目瞭然

左が小ねじ、右がタッピンねじ。「ピッチ」の違いは一目瞭然

ねじのトルク管理

今までにいくつかのねじを紹介しましたが、工業製品で非常に大切なるのが「トルク管理」です。

ここでいうトルクとは締め付け力のことで、どのねじはこれくらいの力で締め付けましょう、といった管理が重要になってきます。

もし仮に弱いトルクで締結をしてしまったら、走行中に部品が外れるといった事故にもつながりますし、だからと言って強いトルクで締め付けると、今度はねじや部材を痛め、場合によっては、ねじがちぎれる(ねじ切れる)こともあります。

一般的に、メートルねじには「T規格」と呼ばれる締め付けトルク規格が存在し、呼び径によって締め付けトルクが決まっています。

しかし、ねじの材質や様々な取付部品によりトルクをかける必要があります。
アルミねじやプラスチック部品の締結にはT規格を0.5倍した「0.5T規格」
エンジンやシャシーの締結には1.8倍された「1.8T規格」
を用いるなどしています。

 では、締め付けトルクを具体的に管理するにはどうすればよいのでしょうか。
先程までに紹介したねじは使用する工具も異なり、人によって締め付けトルクの感覚も異なるでしょう。

そこで登場するのが「トルクレンチ」です。

トルクレンチの一例

トルクレンチの一例

工具によって管理方法はいくつかありますが、代表的なものが上記の写真のタイプです。使い方は、まず左先端に締め付けたい工具のソケットを取り付けます。

次に、右端の部分を回すと赤く囲まれた部分にある目盛が動くので、それを目標トルクに合わせます。

その状態でゆっくり締め付けていき、途中で「カチッ」と音がしたら目標トルクで締め付けたことになります。
締め付けていくときは、赤丸部分付近のローレット部分を握って行うことで、常に同じトルクで締め付けることが出来ます。

他にはトルクレンチに円形の目盛がついており、締め付けとともにその針が動き目盛を読み取るものや、デジタル式のものでは目標トルクに達すると「ブザーが鳴る」などして知らせてくれるものもあります。
 

トルクレンチの設定値。写真では5N・mに設定されている

トルクレンチの設定値。写真では5N・mに設定されている

自動車やバイクでは、整備手順などを示したサービスマニュアルというものがあります。これらの中に一部部品の締め付けトルクが規定されており、自分で整備や点検を行う際にはこれらの値を確認したうえで、トルク管理を行う必要があります。

すべての部品やねじにトルクが規定されているわけではありませんが、重要部品や一般的規格と異なる値でトルクをかける場合などに記載があります。
 
これらのトルクレンチは長期の使用や時間経過によってわずかに値がずれていきます。

そのため、本来であれば定期的に校正を行い、常に正しいトルクで管理できるよう、トルクレンチにも気を配ってあげる必要があります。

とあるバイクのサービスマニュアル。このボルトは10N・mで締め付ければよい

とあるバイクのサービスマニュアル。このボルトは10N・mで締め付ければよい

ねじの山がつぶれてしまったら

ねじは、山と谷がかみ合うことによって締結を行っていますが、間違った工具の使い方やトルク管理が行き届いてない場合などに、ねじの山部分が平らになってしまったりすることがあります。

もちろん、そのままでは適切にかみ合わず、無理に締め付けると相手側のねじを痛めたり、最悪の場合にはそのまま取れなくなったりすることもあります。

そうなる前に活用したいのが「タップ」と「ダイス」です。

左がタップ、右がダイス

左がタップ、右がダイス

タップは「めねじ」がつぶれてしまった際に使用するもので
ダイスは「おねじ」がつぶれてしまった際に使用するものです。

タップは半分から下くらいにねじが切ってあり、ダイスは中央部の四側面にねじが切ってあります。これらの工具を専用のハンドルに取り付け改めてねじを切ってあげると、つぶれた部分が削られスムーズに締め付けを行うことが出来るようになります。

ただし、この方法ではつぶれたねじ山が新品同様に戻るわけではないので、新品に比べてガタが大きくなったり、締結が甘くなったりする場合があります。

そのような場合は新しいねじを購入して対処しましょう。

なお、これらのタップやダイスは機械加工において、ただの穴にタップを立てて「めねじ」にしたり、円筒にダイスを立てて「おねじ」にしたりする用途にも使われます。

ここで取り上げたねじはごく一部であり、今まで挙げたねじ以外にも実はもっと多くの種類があります。
それらの特徴や使用用途を全て覚えるのは簡単なことではないですが、これをきっかけに身近にあるねじに少し目を向けてみてください。

普段何気なく使っているけど、実はよく知らないねじ。

たかが「ねじ」ですが、されど「ねじ」です。

彼らの小さな力の積み重ねによって、私たちの自動車は毎日安全に走っているのですね。
(執筆:横浜国立大学フォーミュラプロジェクト(YNFP))

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