初めまして。2015年度までパワートレイン班に所属していました井畑と申します。2013年~2015年まで活動をし、主に吸排気部品の解析と燃料タンクや燃料ラインの設計を行っていました。現在は大学院に進学し研究に勤しんでおります。私たちチームでは学部3年の9月に引退するために、チームを引退してから早3年と大分時間が経っております。
ここでチームの昔話をしたいと思います。私が入部した2013年は前年度の順位が、【エンデュランス】と呼ばれる1周約1kmのコースを20周する競技でリタイアしてしまいました。その時、チームには大変暗い空気が漂っていたことを思い出します。
私としては、何としても上の順位に上がりたいとがむしゃらに頑張っていました。大会では、電装やブレーキにトラブルを抱えていましたが、無事にエンデュランスを完走してほっとしたのを覚えています。
2014年は一転し、楽しく活動していこうというチーム方針で活動が行われました。この年は使用しているエンジンを新型モデルに変更した年でもあります。始めは4気筒のうち1気筒が点火しないトラブルが起こりましたが、7月にはトラブルフリーで走行できるようになりました。
2015年は3年生の人数が少なく大変でした。マシンを作る時に人数が足りず、先輩にお願いをして春休みに部品を製作して頂くことも。大学の工場が使用できない日には、スポンサーの町工場にお願いをして工作機械をお借りしたこともありました。
多くの方の協力によって、当初の予定通り春休み中に完成することが出来ました。また、この年のカウルはデザイナーの中野雄大さんと後輩が協力してFig1のようにカッコいいデザインになりました。
Fig1.2015年マシン「YNFP-15」
大分引退してから時間が経ちましたが、今回は学生フォーミュラのパワートレインにおける代表的なレギュレーションと、私が2年間設計担当をした燃料タンクについて説明したいと思います。
学生フォーミュラのレギュレーションは英語で180ページありますが、その中でガソリン車のパワートレインに関する特徴的なものを3つ紹介します。
まず、エンジンはF1などのモータースポーツに比べると非常に自由度があります。YNFPでは4気筒600ccのホンダCBR600rrというバイクのエンジンを使用しています。
他のチームでは単気筒450ccやV2の600ccのエンジンを使用しているチーム、過去にはパラツインのCVT付エンジンを使用しているチームがあります。アメリカでは自作のV8,554ccのエンジンを使用するチームが存在するなど、様々なエンジンを使用することが出来ます。
2016以前のレギュレーションでは610cc以下であったために、軽自動車のエンジンを使用するにはボアダウンが必要でしたが、現在はそのまま使用することが出来ます。
ただし、トランスミッション込みの重量を考えると、バイク用のエンジンの方が軽量なため、搭載するチームが存在するかは分かりません。
リストリクターはエンジンの出力を制限するために、空気を吸い込む流路を狭くするものです。学生フォーミュラでは安全のために装着が義務付けられています。そのため、本来120馬力程度出るはずのCBR600rrのエンジンでも、75馬力程度しか出ませんでした。
このリストリクターがあるため、出力の高い4気筒600ccが必ずしも速いわけではなく、出力は4気筒600ccほどではないが、軽い単気筒450ccのマシンで速いチームもあります。
なんと、学生フォーミュラには騒音規制があります。そのうえ日本の騒音規制で用いられている人間の聴覚の特性を考慮して、低周波数の感度を下げたA特性というものではなくではなく、A特性よりも低周波数の感度を上げたC特性を用いるルールとなっています。
日本の騒音規制では、126cc以上の排気量のバイクでは89dBAと定められています。だいぶ緩い規制ですが油断はできません。
ファストウェイティングはエンジンによって異なり、CBR600rrのエンジンでは11000rpmでした。また、2015年はアイドリングの騒音は100dBCとより厳しかったので、大会では多くのチームが苦戦しました。私たちのチームもファストウェイティングは問題ないのに、アイドリング回転数が引っかかってしまいました。
ファストウェイティングはサイレンサー担当が設計時に考慮をしていたため問題がなかったのですが、アイドリング回転数は考慮していなかったため引っかかってしまいました。
大会会場でアイドリング回転数をセッティングで下げて通した記憶があります。この他にも安全に関するレギュレーションがありますが割愛したいと思います。
燃料タンクはガソリンを蓄えるためのものです。学生フォーミュラの大会ではエンデュランスでの20kmが最長の走行のため、燃料タンクの容量は乗用車と比べ少ないです。
私たちのチームでは4L前後、容量が多いチームでも8Lというところです。素材は乗用車では金属製のほかに樹脂製も採用されていますが、私たちのチームの含め、多くのチームでアルミ板を溶接して製作しています。
海外ではCFRPというカーボン繊維強化プラスチックで製作しているチームや、3Dプリンターで製作しているチームもあります。
入部した年なので2013年は先輩が設計していたのですが本当に色々ありました。始めに製作した燃料タンクはシートポジションを変更のため再設計が余儀なくされました。
その結果、段付きの燃料タンクになってしまいました。この段付きの燃料タンクのアルミ板の切り出しと溶接前の準備を入ったばかりの私たち1年生が行うことになりました。これが思いのほかに大変でした。
先輩からは「板と板の間に隙間があると溶接が失敗しやすくなるからピッタリ合わせてくれ」と言われましたが、段差がある部分で全然合わなのです。
最終的にピッタリと合わせたものを先輩に溶接してもらいましたが、複雑な溶接であるため失敗してしまいました。結局3回作ることになり苦しい思いをしました。
去年は恐ろしく作りにくいタンク形状だったので、先輩からは「今年は直方体でいいから作りやすくして」との指令が出ました。
特に燃料タンクはガソリンが入っているため漏れると火災に繋がります。最悪ドライバーが火だるまになります。去年の反省でチームの持つ加工技術の範囲で設計にすることが重要と考えたので、Fig2のような直方体の下に小さな副室を持つ形状としました。
Fig2.2014年の燃料タンク
とにかく軽い燃料タンクにしたいと思い、タンクの位置を進行方向左側に寄せて形状を縦長としたので、タンクと給油口を結ぶフィラーネックパイプという部品の長さを短く出来ました。
容量も攻めて3.5L(大会パンフレットには4Lと書いてありますが私の記入ミスです)としました。そのかわり、Fig3のようにタンク内部にバッフルプレートと呼ばれるガソリンの動きを妨げ、空気の噛み込みを防ぐ板を設けました。
Fig3.2014年の燃料タンク内部構造
ただ、容量は攻めすぎたため苦労しました。大会1か月前の走行会でエンデュランスの燃料消費量を計算した結果、完走には4L必要となりこれでは完走できないとなりました。そのため大会では先輩が燃費重視のセッティングを行い、結果エンデュランスを2.85Lで走り切れました。
設計2年目ということでだいぶ慣れて設計を行いました。昨年の反省から容量を4Lに増やしました。また、この年はフレームの横幅が2014年に比べ狭くなったので、形状がFig4のように複雑になりました。
Fig4.2015年の燃料タンク
Fig4のようにタンク形状が前に出る形状に変わったため、Fig5のようにバッフルプレートを配置しました。
Fig5.2015年の燃料タンク内部構造
ちなみに、この年から私が自分の設計した燃料タンクの溶接を行うようになりました。
アルミの溶接は難しかったです。板と板の隙間が1mmあるだけで溶接の熱でどんどん溶け落ちてしまい、溶接と言うよりは隙間を埋めると言った作業になってしまいました。
当然そんな溶接ではガソリンを入れる勇気はなかったです。試しに水を入れてみましたが案の定漏れてしまいました。漏れた場所を再溶接して水で漏れないようにし、やっとガソリンを入れてみることが出来ました。最初は漏れなかったのですが、長時間放置すると目に見えない小さな穴からガソリンが滲んできました。流石にこれはダメだと思いました。
悩んでいる時に、先輩から「タンクシーラーという燃料タンク内部をコーテッドするものがある」と、教えて頂いたので試しに使用してみました。すると漏れが完全になくなりました。
ただ、形状設計自体は良かったと考えています。走行会では帰ってきたマシンからガソリンを抜いてみたら150mlしか入っていないことがありました。あとちょっと長く走っていたらガス欠で止まってしまったでしょう。
しかし、150mlしか入っていなくてもエアの噛み込みがなく、走行できていたのでその点は大満足でした。ただこの年のマシンは、燃料を満タンにするとマシンの左右の重量差が5kg程度右に寄ってしまいました。このことは当時のシャシー担当から色々言われました。
この反省から2016年からの後輩の設計では、燃料タンクは車両の真ん中に配置し、形状も高さを低くして重心を下げる設計となりました。
思い返してみると、私は車両全体のバランスを考えずに燃料タンクだけの性能を追い求めていました。当時は重心が高くても縦長にして軽く作り、空気の噛み込みを防いで信頼性を上げることが良い設計と考えていたのです。今はもっと車両全体の性能を考慮した設計を考えることが重要だったと考えます。
もう1年設計出来たとしたら、重心も低く空気の噛み込みもない形状・内部構造を考えていたでしょう。しかしそれは後輩が成し遂げてくれたので思い残すことはありません。燃料タンクという地味な部品ですが、これを機に興味を持っていただければ幸いです。
以上、お読みいただきありがとうございました。
執筆:横浜国立大学フォーミュラプロジェクト(YNFP)
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