コルベットの車高は、なぜペッタンコなのか。
アメ車好きには、たまらないフォルム、そして、あのくぐもったようなエンジン音。
シボレー社のなかでもコルベットは永くコアなファンを獲得している車種です。
ただどうしてあのようなペッタンコな車高が可能なのか。
これはエンジンの歴史を紐解くことでわかります。
NASCARレースが舞台のアニメ
エンジンは歴史上登場の順番で、
①SV ②OHV ③SOHC ④DOHC という形式があります。
現在ではDOHCという形式のエンジンが広く採用されています。CMで「DOHC搭載」モデルであることを一つのブランドとしていた時期もありましたね。
それぞれが、一体、何の略称で、それぞれどう違うのか紐解いていくことにしましょう。
SVエンジンとは、1900年代、ガソリンエンジンが採用されるようになった頃、サイドバルブエンジンの略称で、採用されていた形式です。
特徴としては、バルブ(吸気、排気)がピストンの上にある現代のエンジンとは異なり、シリンダーのすぐ横に配置されている点です。そこから上を向いてバルブが設置されていました。
そのすぐ近くにはカムシャフトがあって、そこで直接バルブを動かすという形になり、システムとしてはとてもシンプルなものです。
シンプルな動作を施すエンジンのため、その後登場するOHVよりも静粛性が高く、ロールスロイスなどの高級車に採用されるなど、当時は大変な人気を博していました。
△SVエンジンのメリット
・構造がシンプルなので、エンジン本体が小さくできる
・駆動箇所が少なくなるため、エンジンの摩耗が少なく、丈夫。
・修理、調整が比較的容易にできる
△SVエンジンのデメリット
・燃焼室が横長で広くなり、燃料の圧縮比が高められない
・燃焼室の表面積が広いため、異常燃焼やバックファイアー(燃焼室の外で混合器が燃えること)が発生しやすい→ノッキングの原因となる
・吸気、排気にターンフロー(吸気、排気が同じポートになっている)が多く採用されているため、燃焼の効率が悪く、エンジンの回転数もディーゼルに劣る場合がある
構造がシンプルなため、丈夫さやメンテナンスの容易さに利点があります。
ですが、とても効率が悪く、エネルギーを捻出するのに問題がありました。
エンジンの回転数も制御されてしまい、馬力面での問題が何よりも大きかったのです。
そのため、徐々にエンジンの改良が進められ、
次のOHVエンジンへと時代は移っていくことになります。
なお、現在の日本国内生産において、SVエンジンを採用している企業はありません。
一部の発電機や揚水ポンプなどに用いられてはいますが、
排気ガスの規制の影響もあって、生産、販売は中止されている機構になります。
4A-FE は、DOHCタイプのカムを持つ
OHVエンジンとは、オーバーヘッドバルブの略称です。
吸気、排気のバルブがシリンダーヘッドの上に備えられているのが特徴で、構造はやや複雑になりました。プッシュロッドと呼ばれるパーツでバルブの開閉を行っているため、プッシュロッドエンジンと呼ばれることもあります。
SVエンジンの問題点であった異常燃焼やバックファイアーなどのトラブルが少なくなり、燃焼効率が向上させることに成功。
さらに熱を逃がす量も少なくなったため、
圧縮比を高めることにも成功したスグレもののエンジンです。
なお、日本では頭上弁式と呼ばれることもあり、
これにはSODCやDOHCのエンジンも含まれることがあります。
しかし、厳密な意味としては、カムシャフトがシリンダーにないOHVエンジンのみ頭上弁式と言えます。
△OHVエンジンのメリット
・タイミングベルトなどの複雑な機構がないため、メンテナンスが楽になる
・エンジンはさほど大きくならないので、低重心の車を作ることができる
・低回転でも大きなトルクを確保できる
△OHVエンジンのデメリット
・高回転域が弱い(日常利用には問題ない程度のレベルだとされています)
SVエンジンの問題点を多く解消したOHVエンジン(オーバーヘッドバルブエンジン)ですが、高回転域の問題点は解消されませんでした。
しかし、このOHVエンジンでは、特にアメリカでは多く採用されている形式でもあります。
冒頭でもお話した、シボレーの代表的なスポーツカー、コルベットが採用しているんです。
かなりペッタンコで独特な形状をしたイメージがあるアメリカのスポーツカー。
これらはエンジンの形式をあえて古いものにしておくことで実現されている形状なんですね。
そして形状だけではなく、OHVエンジンのメリットの部分がコルベットというブランドには必要不可欠だったのです。
現在の日本車ではほとんど見ることができませんが、一部の商用車や中排気量のディーゼルエンジンに採用されている場合があります。しかし、アメリカや欧州ではまだまだ根強い人気のあるエンジンの形式でもあるのです。
なお、アメリカでは大人気のNASCARと呼ばれるレースがあります。このレースでは、なんとエンジンの形式がOHVでなければ参加することができません。
その他、FR車(エンジンがフロント、タイヤの駆動がリア)のみの参加などの厳しい決まりはありますが、ここに日本のトヨタもエンジンをわざわざ乗せ換えて参戦しています。
ちなみに、低重心の車を作れるということは、
それだけコーナリングが有利となり、スポーツカー向きのボディが作れるということにもつながるのですね。
水平対向型のエンジン
LFA(1LR-GUE)低重心のスポーツカーだ!
アメリカでは大変人気の高いOHVエンジンですが、日本国内では四輪の自動車とは違う世界で多く採用されています。
(1)二輪車
二輪車のOHVエンジンというと、アメリカのハーレーダビッドソンが名前として挙げられますが、日本でもヤマハやカワサキのバイクにも一部で採用されています。
具体的に挙げるとすれば、高回転の必要がないクルーザー型のオートバイです。
V型2気筒エンジンを搭載し、独特のエンジン音を出します。
また、ホンダは東南アジアや南米諸国向けに125ccのOHVエンジンを搭載したバイクを販売。
これは、整備事情が悪い地域向けのもので、OHVエンジンの整備のしやすさをウリにしています。
現在では自動車排出ガス規制の影響で販売されていませんが、2003年から2007年までの間、スズキが販売していたチョイノリにも搭載されていました。
シンプルな原付バイクで、徹底的に無駄を排除した値段の安さが人気となったので覚えている方も多いかもしれません。
(2)航空機用のエンジンとして
航空機というと、非常に高回転で回っている印象があるかもしれませんが、実はそれほど高回転である必要はありません。
むしろ、低回転、あるいは中回転域での高いトルクが求められます。これは、高回転になると、衝撃波によるプロペラの効率低下が発生するためです。
低回転、中回転での高トルクは、正にOHVエンジンがうってつけの領域でもあります。また、空を長い時間飛び続けるという意味でも、その丈夫さが信頼となり、今でも航空機のエンジンの主役として採用されているのです。
(3)汎用エンジンとして
自家用発電機や揚水ポンプなどに用いられているエンジンもOHVを多く採用しています。
これは整備のしやすさ、そして軽量がウリとなっているのですが、近年ではSOHCタイプのエンジンも多くなりました。
SOHCエンジンとは、以前、単にOHCエンジンと呼ばれていたもので、シングルオーバーヘッドカムシャフトの略称となります。
プッシュロッドで開閉されていたバルブはカムシャフトと呼ばれるパーツで開閉がされ、カムシャフトはタイミングベルトやタイミングチェーンによって制御されるようになりました。
タイミングベルトやタイミングチェーンはクランクシャフトとつながっていて、クランクシャフトの回転に合わせてカムシャフトが動くことになります。
DOHCとの違いは、カムシャフトの本数です。シングル、つまりカムシャフトは1本となるため、吸気と排気の両方を担っているのが特徴となります。
△SOHCエンジンのメリット
・OHVと比較すると、バルブの開閉管理がしやすく、高回転で高出力が実現できる
・DOHCと比較すると、カムシャフトが1本少ないため、駆動の抵抗が少ない。結果、燃費の良いエンジンを作りやすい
・部品数がOHV、DOHCよりも少ないので、小型かつ軽量で整備のしやすいエンジンとなる
△SOHCエンジンのデメリット
・吸気、排気のバルブの数が増やしにくく、DOHCのような高回転エンジンを作りづらい
・高回転になるとバルブの開閉精度が落ちる
・DOHCと比べて、バルブのレイアウトの許容範囲が低い
OHVエンジンが解消できなかった高回転領域の問題をクリアしたSOHCエンジン。
現代のDOHCエンジンに近い構造ですが、燃焼室やカムの形状を決めるという意味での自由度が低いという問題点がありました。
SOHCエンジンは、DOHCと比較すると自由度が低く、高回転域のカバー力は弱いですが、決して性能面で負けているというわけではありません。日本国内でいうと、三菱自動車のMIVECエンジンの一部、あるいはホンダのVTECエンジンの一部でも採用されています。
DOHCとはダブルオーバーヘッドカムシャフトの略称で、現代の日本で最も多く採用されている自動車エンジンの形式です。
吸気、排気を1本のカムシャフトで制御していたSOHCと比べ、吸気で1本、排気で1本のカムシャフトを使っているのが特徴となります。一時期、高級感を出すため、自動車に「DOHC」とロゴを配置するものもありました。先ほどのCMの話も一緒ですね。
△DOHCエンジンのメリット
・SOHCと比べ、バルブの調整がしやすく、高回転、高出力の捻出が容易になる
・シリンダーヘッドの設計自由度が高くなるため、高性能エンジンの製造が可能になる
・吸排気の効率を高め、環境にもやさしい構造を作ることができる
△DOHCエンジンのデメリット
・部品が多く、構造が複雑になるため、整備、メンテナンスが大変
・カムシャフトが2本となるため、シリンダーヘッドの大型化は避けられない
・SODCのエンジンと比べると燃費が悪くなる傾向にある
しかし、このDOHCエンジンは、1912年、エルネスト・アンリが開発したものとされています。一部では、スペインのマルク・ビルキヒトのアイデアを自分のものにしたという説もあるようですが…。日本では1963年発表のホンダT360(軽トラック)に初めて搭載されました。
VQ20エンジン、ツインカム表示が見られる
3VZ-FE は、DOHC24バルブである
日本では、トヨタや日産、スズキ、ダイハツなどで採用されているツインカムという言葉。これはすべてがDOHCという意味では使われていないことに注意が必要です。
その名の通り、カムがツイン(カムシャフトが2本)という意味ではDOHCのエンジンと同じです。しかし、シリンダーを左右交互に配置しているV型エンジンなどでSODCのエンジンだった場合、カムシャフトが2本となってしまいます。これがDOHCタイプだと2×2、つまりカムシャフトが4本となってしまうのです。
また、ハーレーダビッドソンのバイクには、一部OHVエンジンでもツインカムと表記している場合があります。トヨタでは特に、FOUR CAM(カムシャフトが4本)と区別しているようですが、ツインカムイコールDOHCとは限らないということなんです。
現代ではすっかり定番となったDOHC形式のエンジン。これもさらに速く走りたい、高性能のエンジンを作りたいという人間の研究心がもたらした結果です。
現代ではさらに可変バルブタイミング機構などの研究が進み、ますますエンジンは素晴らしいものになっています。
でも、フォルムと大きなトルクを求めて、コルベットのように古い形式のエンジンをあえて使う車種もあります。
これから先、それぞれのエンジン型式の特長を活かして、嗜好品としての車、そして、快適な移動の手段としての車、どのように発展していくのか、とても楽しみですね!
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