今回のコラム執筆担当の名古屋大学です。 皆様、「リトラクタブルヘッドライト」というものをご存知でしょうか?
RX8とRX7。RX7はリトラだ!
車好きな方であったりすると「リトラ」などと呼ばれているかもしれません。 リトラクタブルライトとは、その名の通り格納式のヘッドライトのことです。 なんでわざわざ格納式にしているのか?と、いった疑問もあるかもしれませんが、なんとも言えない魅力があるデザインと感じております。
画像1:RX7、ヘッドライト閉
画像2:RX7、ヘッドライト開
画像1及び2はマツダ・RX-7です。 この車に採用されているものが「リトラクタブルヘッドライト」です。 画像1のように、ライトを格納式とすることによって、車体先端部を低くすることができます。
普段(ヘッドライトを点灯していないとき)は、ヘッドライトが見えていないという点でのデザイン面での利点があります。 ヘッドライトを格納しているときには、とてもスタイルがよく見えますが、ライトを点灯させているときの見た目は、筆者的には。。。好みが分かれそうな見た目であるなといったように感じます。
リトラクタブルヘッドライトは80、90年代のスポーツカー等に多く採用されてきました。 しかし、現在では製造されていません。
リトラクタブルヘッドライトである理由ですが、もともとヘッドライトの高さの規定が厳しかった頃に、ボンネットを低くしてもライトの最低地上高を確保するために格納式で可動することにより、ライトの位置を変えるものであったようです。 ライトの高さに問題はなくとも、リトラクタブルヘッドライトが採用されていたりもします。
それは車のデザインに関連するもので、特に公道を走行することになる乗用車ではヘッドライトを車の先端部に装着することは必須であり、デザインの面で大きく縛られることとなります。
しかしリトラクタブルタイプの場合、ライトを表に出さなくていいためデザインの自由度 が増えるといった利点があります。 それでもリトラクタブルヘッドライトの車は、どれも似たような顔つきであるように見えますが、やはり固定式ライトとは違った印象があります。
現在、リトラクタブルヘッドライトが製造されていない理由としては、事故衝突時に歩行者保護の観点で、ライト自体が突起となっており危険であること。 固定式ライトに対して製造のコストが高いということ。 ライト可動のための、モータやヒンジがあることによって重量が増えるということ。 特に重量の増加する場所が車両の中心から離れた場所であることから、車両の運動性能に影響あると考えられること。
以上の理由によって今は製造されていないようです。 他の理由としては、常時点灯の義務付けによる問題があります。 常時点灯とは、車のヘッドライトを昼間であっても常時ヘッドライトを点灯させておくことです。
昼間の明るいときであっても、ライトを点灯させておいたほうが被視認性は高くなります。
身近なところでいえば、バイクでは日本において常時点灯が義務付けられています。 1998年から義務付けされており、それ以降の日本市場向けのバイクに乗ったことのある方であったらヘッドライトを切ることができず常時点灯となっていることをご存知でしょう。
自動車では、昼間でも暗くなりやすい高緯度の国、スウェーデンやフィンランドといった北欧の国やカナダなどでは、この常時点灯が義務付けされています。 このような国であるとリトラクタブルヘッドライトは常に出ている状態となり、格納式とする必要性が薄くなります。
また、リトラクタブルヘッドライトをつけたときには、ボディから飛び出たようになるために空気抵抗が増大してしまうという問題もあります。 以上のリトラクタブルヘッドライトのデメリットから、あとから社外品の固定式ヘッドライトに変更したりなどよくあります。
またホンダ・NSXや三菱・GTOでは、最初はリトラクタブルヘッドライトが採用されていましたが、マイナーチェンジに伴い固定式のヘッドライトに変更されました。 主な理由としてはライトの重量の問題などによる変更だったようです。
リトラクタブルヘッドライトと似たようなものとして、ポップアップ式ヘッドライトというものがあります。 リトラクタブルヘッドライトが格納状態で下を向いているおり点灯時に前を向くのに対し、ポップアップ式ヘッドライトでは格納状態で上を向いており点灯時に前を向きます。 採用されている車は多くはありません。
代表的な車種でいえばランボルギーニ・ミウラとかポルシェ・928、968などになります。(みかけることは少ないですね。。。)
車検には、検査項目に光軸検査というものがあります。 光軸とは、車のヘッドライトの光の中心線のことです。光軸検査では、夜間にライトを転倒させたときに自分の視界が確保できるように、対向車や前を走る車がまぶしくないように検査が行われます。
普段なにげなく運転をしていると、光軸を気にすることは少ないですが、光軸の上がった車は、周りからすると、とても迷惑でありまぶしく危険であります。
この光軸検査ですが、何となくあっていればいいというものではなく、意外と検査は厳しくなっております。 特に問題のなさそうな車であっても、光軸を調整せずに車検場に持っていっても、だいたいは光軸で引っかかってしまうというように感じます。
ここまで一般的な車両の光軸について書きましたが、実はリトラクタブルライトだと特に光軸がずれやすいです。 ライトを稼働させてしまうだけで光軸がずれてしまう可能性があるので、光軸を調整してからライトを開きっぱなしで車検に向かったりします。 (基本的にライトを点灯させたときに稼働するのですが、たいていの車両ではライトを点灯させずに開きっぱなしにすることもできます。)
ぶつけたり、壊したりしなければ当然お金がかかってくることはありませんが、可動に用いられているモータや配線が故障してしまうということがあるようです。
画像3:ヘッドライトカバー下
最近はリトラクタブルライト車の新車販売はなく、2、30年ほどたっている車が多くあるためトラブルつきものでしょう。 配線等のトラブルであれば安く抑えることができるかもしれませんが、モータ自体がだめになっており新品交換となると高くつきます。
ちなみに、画像3のRX-7(FD3D)のモータであると、現在では31600円となっています。
今回はリトラクタブルヘッドライトについて書かせていただきました。国内では、リトラクタブルヘッドライトの車両は2002年のRX-7を最後に製造されていません。
90年代ごろの国産のスポーツカーの中古車はというと、状態は年々悪くなっていっている一方、価格の方はなかなか落ちていかない、車種によっては価格が上がっているといった状態にあります。
それでも乗りたいという人はいると期待して、リトラクタブルヘッドライトの車両のうち入手及び維持が、比較的に簡単そうな中古車をあげていきたいと思います。
・マツダ・ロードスター(NA、初代)
1989~1997年製造。
下火にあったライトウエイトスポーツを復興させ、多くを売り上げたオープンカーです。
今でも人気のある車で、古い車ながらいまでも多くの車体が乗られています。
年式相応のトラブルはあっても、小排気量の自然吸気で維持はしやすいのではないでしょうか。
画像3:ヘッドライトカバー下
・日産・180SX
1989~1998年製造。
シルビア(S13)の姉妹車であり、シルビアが固定式ヘッドライトであるのに対し、こちらはリトラクタブルヘッドライトでハッチバックとなっています。
特にターボ仕様の車両はドリフト用として人気があり、酷使されたものが多く良モノが希少です。
さらにさらに!ドリフト向けの車両が近年メーカーから発売されていない、売れ行きがよくないということもあり中古価格が落ちないといった状況ですが、NA(自然吸気)のものであれば状態のわりに価格も低く比較的オススメです。
・トヨタ・MR2(SW20、2代目)
1989~1999年製造
初代MR2(AW11)もリトラクタブルヘッドライトではありますが、年式の古さの点もあり2代目(SW20)について紹介させていただきます。
状態の良いものはプレミアが出ていたりしますが、比較的手の出しやすい車体価格で、ターボの車両は、いまでもジムカーナなどで活躍しています。
NA(自然吸気)の車両は、非力ながらも車体価格をさらに抑えることができるという点で、オススメであります。
・トヨタ・スプリンタートレノ(AE86、4代目)
1983~1987年製造
カローラ・レビンとの姉妹車であり、レビンが固定式ライトであるのに対しこちらはリトラクタブルヘッドライトとなっています。
漫画「頭文字D」やレーシングドライバーである土屋圭一の影響もあり、特に人気の高い車種で状態のよい車両はプレミアがついていたりします。
しかし、人気車であるがために年式の古さにも関わらず、部品が出やすいという点、いまだに社外パーツが豊富にあるといった点ではオススメできる車と言えるでしょう。
その他にも1990年前後あたりには、映画“わたしをスキーに連れて行って”で一躍人気車種になった、セリカGT-FOUR(ST165)や、カローラⅡのGP-TURBOやコルサ(EL30)もリトラクタブルヘッドでした。 165の後継車であるセリカST185は、トヨタ初のWRCマニュファクチャラーズタイトルを1993年に取った車もリトラクタブルヘッドでした。 ちなみに1993年のWRCドライバーズタイトルはセリカを乗っていた、ユハ・カンクネン。
その他にも、軟派な感じでホンダのプレリュード(BA5)は4WSを量産車初搭載でリトラクタブルヘッドした。 今でいうとマツダのアクセラ(Mazda3)は通常ヘッドですが、90年代のMazda3はファミリア アスティナGT-Xもリトラクタブルヘッド。 スバルならアルシオーネ、三菱ならスタリオンやGTO、もう乗用車を生産していない、いすゞにはピアッツァなど等、1980年から90年後半までは、どのメーカーからも多様な車種でリトラクタブルヘッドの車を販売していました。
10年20年前の車なので、良モノな中古車が少なくなっていますし、ずっと乗り続けているオーナーさんのリトラクタブルヘッドライトの車に関連して、最近の話題としてマツダ・初代ロードター(NA)のレストアサービスが発表されました。 このようなマツダのレストアサービスが出たことに驚きを感じた人も多いかもしれません。
他のメーカーなどでも90年代当たりの人気車種を中心に同様のサービスがあったりもします。 レストアサービスによって注目を浴びましたが、そういったサービスを行っている車種だけでなく、マツダ・RX-7(FD3S)などの他の車種も、生産開始から26年、生産終了から15年ほどたっていますが、たいていの純正部品は今でも供給され続けています。
いったん供給が切れたものであっても、需要があれば再生産も行っているようです。 年々純正部品の価格は上昇していますが、今でも買うことができるだけありがたいことでしょう。
90年代当たりのリトラクタブルヘッドライトの車両に乗ってみたいという方であっても、維持の観点で心配な方もいるかもしれませんが、まだまだ維持していくことは可能であるともいえます。
リトラクタブルヘッドライトのデザインが好きだとか乗ってみたいといった人は、これからというよりは今しかないのでしょうか。
(執筆:名古屋大学自動車部)