ライトウェイトオープンスポーツを救ったロードスター
1960年代イギリス、ヨーロッパでは「MG B」や「ロータス エラン」といった『ライトウェイトオープンスポーツ』が人気でした。
MG ロードスター
ライトウェイトスポーツカーというカテゴリーの車は、速いわけでもなく、乗り心地が良いわけでもなく、実用性もない、一見何の良いところもないように思える車です。
しかし他の車に比べたった一つの優れている点がありました。
それは「運転が楽しい」という点でした。
運転が楽しい車というのはドライバーの心に訴える車。
つまり自分の思い通りにコントロールできる、車と一体になってコーナーを曲がるように感じられる、心地よいエキゾーストノートなどなど、感じることがメインになります。
0-100km/hが何コンマ何秒とか、コーナリングGが何Gや燃費がどれだけというものと違い数値で表すことのできないドライバーの頭ではなく心に訴えかける車です。
ロータス エランのイラスト
1960年代にイギリスで生まれ、ヨーロッパで人気を博した「MG B」や「ロータス エラン」も「運転が楽しい」車を目指して開発されました。
まずはMG Bから見ていきます。
MG Bは1962年から1980年にかけて全世界で52万台以上も販売され、大ヒット作となりました。
普通に考えれば、とても速いわけでもなく実用性もない小さなオープンカーという特殊な車が、こんなに売れることが不思議です。
しかしMG Bには売れる理由、ライトウェイトオープンスポーツの肝がそろっていたのです。
ライトウェイトオープンスポーツを作るうえで一番大切なことは、その名の通り“軽量”であること。
MG Bの車両重量は910kgと、とても軽量でした。
前身モデルのラダーフレームからモノコックフレームに代わり、高級な装備を省き、軽量に作られました。
1800ccの自然吸気直列4気筒で約95馬力。
それは現代からすれば、とてもスポーツカーに乗せるとは思えない非力なエンジンをフロントに積み、4速マニュアルトランスミッションを介してリアを駆動していました。
ここで重要なポイントは、マニュアルミッションはもちろんですが、リアを駆動していたということです。
車にはMG Bのような、
・フロントエンジン+リアドライブ → FR
最近の車に多いのは、
・フロントエンジン+フロントドライブ → FF
スポーツカーに多いのが、
・ミッドエンジン+リアドライブ → MR
など、様々なエンジンの配置と駆動輪の組み合わせがあります。
ライトウェイトオープンスポーツにとって、なぜFRが大切なのか?
それは、車を前に進める仕事するタイヤ(FRでは後輪、FFでは前輪)と、車の進める方向を決めるタイヤ(FR、FFともに前輪)が、FRでは別々に用意されている点が挙げられます。
そのため前輪のみに両方の仕事をさせるFFと異なり、よりニュートラルで自然なハンドリングを実現することができます。
また、エンジンがフロントにあり、駆動にかかわる装置がリアにあることで車の重心を中心に持ってくることができます。
つまり、車の重心がドライバーの座るところに来ます。
そうなることでハンドリングが向上するのはもちろん、車の重心から離れたところで車を操作するのではなく、自分が車の真ん中に入り込み運転するため、より車との一体感が得られるようになります。
自然で心地よいハンドリングと車との一体感、どちらも「運転が楽しい」と感じられるポイントになります。
そしてサスペンションのコストを下げずに優秀なサスペンションエンジニアがハンドリング重視のサスペンションを付け、魅力的なボディをデザインしたことでMG Bはライトウェイトオープンスポーツの肝をそろえ、ドライバーに運転の楽しさを訴えることに成功したのです。
MGロードスターの魅力は軽量
後輪駆動のFRタイプのMG
次にもう一台のライトウェイトオープンスポーツカーである、ロータス エランを見てみます。
ロータス エランは、1962年から1975年まで生産されていました。
MG Bに比べ、ロータス エランはライトウェイトオープンスポーツの肝を、さらに追及していました。
革新的なX字型をしたバックボーンフレームの上に、FRP製のボディをかぶせ剛性を確保しながら軽量化を図りました。
おかげで車両重量は、驚異の688kgほどに抑えられました。
エンジンは1500~1600ccの自然吸気直列4気筒で100~115馬力程度を発生しました。
もちろんMG Bと同じ、フロントエンジンリアドライブ(FR)です。
ロータスの優秀なエンジニアが4輪独立の素晴らしいサスペンションを設計しました。
なにより、リトラクタブルヘッドライトがついた魅力的なボディデザイン!!
これぞ、ライトウェイトオープンスポーツという車でした。
これらのライトウェイトオープンスポーツはイギリスから始まり、ヨーロッパだけでなく世界的な大ヒットでドライバーの心を掴みました。
クネクネと曲がりくねったワインディングロードを小さな車と一体になりながら肩に風を受け走る。
歯を食いしばってスポーツカーを飛ばすのとは違う楽しさがありました。
しかし、1980年頃こと・・・
そんなドライバーの心を掴み、ドライバーとの間に絆ができるようなライトウェイトオープンスポーツが絶滅の危機に瀕します。
ロータス エランの生産は終わり、MG Bもマイナーチェンジをするうちにライトウェイトオープンスポーツらしさが薄れ人気が下火になってきます。
さらに!オイルショックで、燃費性能が車に求められる性能の大部分を占めるようになりました。
もともとイギリス車の欠点であった、信頼性のなさもあり世界からライトウェイトオープンスポーツが消えていきました。
世界中のどの自動車メーカーでも、もうこのような車は売れないと言われました。
今後、ライトウェイトオープンスポーツカーは作られることはないとまで言われました。
開発キーワードから「運転が楽しい」は消え、コストカットや燃費を追求するようになりました。
車が、単なる移動手段の道具として開発されることが多くなってしまいました。
しかし、ある人の一言で歴史が変わりました。
日本の自動車メーカー“マツダ”の、当時北米に設置していた開発部門の一人が
「MGのようなライトウェイトカーがあれば」
と発したのです。
それを受けてマツダは、ライトウェイトオープンスポーツの開発を始めました。
開発のテーマはコストや燃費ではありませんでした『人馬一体』というテーマが選ばれました。
そう、ライトウェイトオープンスポーツの肝です。
1960年代に一世を風靡したMG Bやロータス エランを参考にそれらの良い点である“軽さ”“FR”“小さな自然吸気エンジン”などすべてを取り入れました。
その上で、欠点であった信頼性のなさなどを取り除きました。
マツダは「運転が楽しい」車を作るために全てを尽くしました。
車両重量は950kg程度に抑えられました。
車の重心を、ピッタリ中心に持ってくるためにバッテリーをエンジンルームからトランクに移されました。
重量物は、なるべく重心に近い位置に配置しコーナリング時の慣性モーメントを極力減らし、前後ダブルウィッシュボーンのサスペンションを付け人馬一体のハンドリングを目指しました。
また、MGなどのエンジン音を録音して研究したとまで言われています。
こうして誕生した車がマツダ ロードスターです。
小さく軽量でFR、ドライバーの心に訴えかけるライトウェイトオープンスポーツの肝をすべて押さえていました。
このマツダ ロードスターは大成功を収めます。
1960年代のイギリス製ライトウェイトオープンスポーツのように、人々の心を掴んだのです。
4世代目のND5RC:マツダ ロードスター
マツダ ロードスター(ユーノス ロードスター)
初代ロードスター(NA6CE)は、1986年の発売当時はマツダの別ブランドである、ユーノス店から発売され、ユーノス ロードスターと名づけられました。
その初代ロードスターの成功を見た他の自動車メーカーは、こぞってライトウェイトオープンスポーツを開発しました。
MG Bの生産をやめていたMGはMG Fを作り、イタリアのフィアットはバルケッタを作りました。
そして、ドイツの大メーカーメルセデスベンツはSLKを、BMWはZ3を作りました。
スズキはカプチーノ、ホンダはビートと、1980年頃一度は絶滅したかと思われていた、ライトウェイトオープンスポーツカーがよみがえったのです。
BMWのZ3、2.2リッターモデル
スズキのカプチーノもFR車
ホンダ、黄色いビート
この後、2000年5月にロードスターは生産台数531,890台とMG Bを抜きました。
「2人乗り小型オープンスポーツカー生産累計世界一」
としてギネス世界記録に認定されました。
その後も60万台、70万台と記録を更新し続けました。
そして2016年4月22日には累計生産台数が100万台に達しました。
登場から28年たっても、ライトウェイトオープンスポーツカーを救ったロードスターは進化を遂げながら生産され続けています。
最近では衝突安全性や歩行者の保護、ナビなどの装備が増え、どの車も車両重量が増える一方です。
そのため、軽量が肝であるライトウェイトオープンスポーツを開発するのは、徐々に難しくなってきています。
しかし4代目になる現行モデルのロードスターは、衝突安全性等を満たしながらも車両重量は990kgと1トン以下に抑えられています。
これを実現するために、マツダはグラム作戦という手法を取りました。
ボディパネルを鉄からアルミに変えるなどの軽量化のみでは足りないため、それぞれのパーツからグラム単位で重量をそぎ落としました。
例えば、車台の溶接した部分の端っこを波型にカットしたり、ドアの間に隠れているサイドウインドウの下部に丸い穴をあけたり、リアサスのクロスメンバーに重量軽減穴を開けたりする等です。
それが積み重なって、大きな軽量化に成功しました。
黒点が溶接部のモデル図
波状カットでグラムを削る
このようにコストがかかっても
『運転が楽しい』
ということを追求してきたからこそ、これだけの成功につながったのです。
ND5RCがベースのアバルト124スパイダ
『運転が楽しい』
ということは、速さのように数値で測れる性能ではありません。
そのためカタログに、素晴らしい数値を記載し高性能をアピールして売りたい自動車メーカー側からしたら売りにくい車なのかもしれません。
しかし、人間は様々なことを感じることがでます。
そして、それを基に行動を起こしたりします。
だからこそ燃費や速さなどの数値で頭に訴える車だけでなく、運転感覚が心に訴える車も売れるのだと思います。
絶滅したかと思われた『ライトウェイトオープンスポーツカー』ですが、マツダ ロードスターによって救われ今も発展しています。
今後、環境問題などがより大きくなりますし、自動運転などの新技術も出てきます。
しかし、多くの自動車メーカーが心に訴えられる
『運転が楽しい車』
を作り続けてくれることを願います。
(執筆:岐阜大学自動車部)
パーツやメタル資源として再利用し国内外に販売!
車解体の資格を持つ廃車.comの工場と直取引だから高く買取れる。
すでに払った31,600円の自動車税も返ってくる。
(4月に廃車/1,600cc普通自動車)