皆さん、こんにちは。
横浜国立大学学生フォーミュラプロジェクト[YNFP]で、2019年度にパワートレイン班のリーダーをしていた福田です。
メンバーのみんなで交代しながらコラムを書いていますが、なかなか他の人とテーマが被らないようにしていくのが難しくて大変です(笑)。
今回コラムを担当させていただくことになり自分にしか書けないコラムのテーマは何かないかと、考えてみたときに自分がモータースポーツの世界にのめり込むきっかけとなった「スクーターレース」というものについて書いていこうと思います。
私はバイク屋を営業していた父親の影響で、幼少期からミニバイクレースに参加していました。
その1つの中にスクーターレースがあり、約10年前から参加しています。
スクーターレースはミニバイクレースの一種で全国各地のミニサーキットで様々なクラスが開催されています。
そもそもスクーターとは無段階変速システムを有する二輪車のことであり、通勤やお買い物に大活躍の乗り物です。
学生の通学にも活躍するスクーター
アクセルを捻るだけで発進と加速ができて、自転車と同じように両手のブレーキレバーを握ることで減速、停車ができるため自転車さえ乗れれば簡単に乗れることから幅広い層の方に利用されている二輪車です。
「え?スクーターってあの原チャリとかでしょ?遅いんじゃないの?」
そう思われる方もたくさんいるかと思いますが、ところがどっこい!!実はスクーターも速いんです。
いつもは街中をビュンビュン車に抜かれながら道路の端っこに追いやられているスクーターがMotoGPのようにヒザやヒジを擦りながら走る様は一見の価値があると思います!
そんなスクーターレースは1980年代のバイクブーム時、全国のミニサーキットがミニバイクで溢れかえっていた頃に広がりました。
それまでは利便性や気軽に乗れるオシャレさを全面に打ち出し主婦層や若者をターゲットとした商品展開でしたが、ヤマハ製の「JOG」のヒットから各社からJOGを追いかけるようにホンダからはDJ-1やDio、スズキからはHiやセピアが発表されて軽量な車体にパワフルなエンジンを積んだスポーツスクーターはすぐに流行りました。自分の父親が高校生くらいの時代ですね(笑)
ヤマハ製初代JOG】くちばしのようなフェンダーからペリカンJOGと呼ばれて高値で取引される。
スポーツスクーターが発売されるようになり、ミニサーキットでスクーターもミニバイクレースに参加していくようになりました。
そこから二輪雑誌がスポンサーになっているようなレースでもレギュレーションが決められて細かいクラス分けをされた現在のようなスクーターレースの形へと変化していきました。
しかしながら、スポーツスクーターが各社から多数発売されるようなったとしてもやはりスクーターは所詮スクーターです。
本来の用途と違う使い方をしようとするとどうしても不具合が起きたりするのは付き物で、スクーターでサーキットを走るからこそ起きる問題も沢山あります。
そんな問題の中の代表的な三つを紹介しようと思います。
ギアのついたバイクから乗り換えた人が一番に違和感をおぼえることが、太ももの間にガソリンタンクが無いことです。
スクーターは乗り降りをしやすく、ライダーの服装を選ばないようにまたがらずにシートに腰かけて運転するような作りになっていて、利便性を求めた結果ガソリンタンクはシート後方や下に配置されます。
そのため、バイクの基本的なフォームであるニーグリップがほとんどできません。
下の画像をご覧ください。
ストリートマジック110と借り物のアドレス110に乗る筆者
この写真は筆者が普段スクーターレースに参戦する車両のストロークエンジンリートマジック110と知人から借りたアドレス110を乗っているところを同じコーナーで撮った写真です。
ストリートマジックはスクーターには珍しいガソリンタンクが太ももの間にある車両です。
自作したガソリンタンクをツインスパーフレームに搭載しているため普通のバイクのように乗れるのですが、乗りなれないニーグリップのできないスクーターに乗ると下半身のホールド感の無さに大変戸惑ってしまいます。
もし、ニーグリップができるスクーターが欲しいという方がいらしたら180㏄4ストロークエンジンを積んだスズキストリートマジック110かイタリア産のジレラDNA180をお勧めします。
ニーグリップができる数少ないスクーター ジレラ DNA180
バイクに乗りなれた人が次に戸惑うのがエンジンブレーキが効かないことです。
MTのバイクはいくつもの歯車やチェーンを介してクランクとリアタイヤがつながった状態で加速と減速を行いますが、スクーターでは遠心クラッチが回転速度に応じてクラッチを繋いだり切り離したりしているため、加速時にしかクラッチが繋がりません。
バイクに乗っている方は想像できるかと思いますが、クラッチを切ったままでフルブレーキング、フルバンクコーナリングすることを。
想像しただけで下半身がそわそわして落ち着きませんよね。
旋回中のリアタイヤの安定性を高めてくれるエンジンブレーキがスクータースクーターでサーキットを走るときは、利便性を高めるための遠心クラッチによって使用できません。
そのため、旋回中のリアタイヤの安定性を高めるために、旋回前半時にリアブレーキで疑似的にエンジンブレーキをリアブレーキを引きずりながら使ったり、制動距離を短くするためにリアブレーキへの負担が多くなるため、放熱性の低いドラムブレーキをディスクブレーキ化するチューニングがトップ層では定石になりつつあり、ディスクブレーキ化のキットもパーツが出ています。
これを言い始めたら元も子も無いですがそもそもスクーターはスポーツ走行を前提とした設計がされていないため、同じような車格のスポーツモデルと比較してしまうと走行性能は劣ります。
だからこそ、スクーターレースではスポーツ用のパーツへの置き換えやフレーム加工、スポーツモデル車両のパーツ流用が当たり前です。
もし、これからスクーターレースに参戦したくてスクーターを買おうと検討するのであれば、社外品のパーツやカスタムの豊富な車種を選ぶとあまり手を煩わせずに速くして楽しむことが出来ると思います。
私の乗っているストリートマジック110はフロントコラム以外のパーツのフロント周りはNSR50のパーツで固められており、エンジンの腰上はRS125-NX4用、ツインスパーフレームにはサブフレームを追加しリンクを使ってNSR50用のリアサスを使用しています。
いわゆる魔改造と呼ばれるような車両ですが、それもニッチなスクーターレースの楽しみ方の一つでもあります。
図5,腰下以外に純正部品が無くなってしまったストリートマジック110
私が参加しているレースは[S-1GP]と呼ばれる改造無制限のスクーターレースに参戦しています(ここ数年は学生フォーミュラや授業等でまともにレースに出場できていません)。
このレースの特徴は「(おそらく)日本一車両規則が緩く速いスクーターレース」であることです。
もちろん安全にサーキットをスポーツ走行しても安全が担保されていることを前提としていますがこのクラスについての規定は
「使用車輌は排気量125cc以下のスクーターをベーストロークエンジンし、最大排気量は2サイクルは200cc、4サイクルは240ccまでとする。
ベース車輌が125ccを超える車体であっても125cc以下の車輌と同型式,同寸法のフレームを持つ車輌は可とする。
スクーターとはライダーが変速機能を操作出来ない自動変速や無段変速の車輌とする。
エンジンスワップやカスタムは自由だが、大会委員が危険と見なした車輌は走行不可とする。」
としかありません(S-1GP websiteより引用s-1gp.net/regulations.html)。
全国で行われているモトチャンプ杯の改造2ストロークエンジンのFSクラス、無差別級のOPENクラスよりも排気量制限や車体に関する制限が緩いことが「(おそらく)日本一車両規則が緩く速いスクーターレース」と前述した理由です。
参戦車両も幅広く定番のシグナス、BW’s、アドレス、ストマジから始まり、自作エンジンの2ストロークⅤ2エンジンを積んだモンスターマシンまで豊富です。
S-1GP Pro-classのスタート風景 フロントに精一杯体重をかけても簡単にウイリーしてしまいます。
そんな自由なクラスだからこそ、マシンの戦闘力は日本トップレベルですし、一台一台の車両がとても個性的で見ているだけでも楽しいと思います。
もし観戦してみたいと思ったら千葉県茂原市の茂原ツインサーキットで行われているMOTO WEST GPや秋ヶ瀬サーキットで年に一回行われているスクーターミーティングのエキシビジョンレースを見に来てください!
ここまで説明した文章を読んで「参戦費用が高額になりそう…。」「ガチ勢しかいなくてハードルが高そう…。」と思われる方が多いかと思います。
しかし、関東や関西で広まっているスクーターレースは改造できる範囲やベース車両、排気量で細かくクラス分けがされており、参戦コストが抑えられるような工夫がなされています。
全国的にレースが行われているFNと呼ばれるクラスではウエイトローラーと呼ばれる駆動部品、キャブレターのセッティング部品、タイヤ、リアサスペンション、ブレーキパッドのみの交換が認められているだけです。
おそらく上記のパーツを全部交換しても5万円も行かないと思います。
もちろん、交換していいというだけで最低限の整備だけをしてそのままレース参戦しても充分楽しめます。
最近ではお試し参加用の車両貸出サービスやレーシングスーツのレンタルサービスもあるので、初期投資を抑えて自分にも楽しめるか試してみるのもオススメです!
まとまりのない文書となってしまいましたがローコストで奥が深くて一番身近な参加型モータースポーツとして参戦の検討をしてみてはいかがですか?
執筆:横浜国立大学 自動車部